3 受け継いだもの ~忍 -3-
根拠はない。ただ、そう感じるだけだ。
でもお祖母ちゃんは忍に、いつも自分を研ぎ澄ませと言った。自分の感覚を疑うな、とも。
だからそれに従うのが、きっと正しい道なのだ。
「せめて少しでも早く決着をつけたいんです」
それが臆病だった自分が被害にあった人たちに出来る、せめてもの償いだ。
そんなもの、今さら意味はないかもしれないが。やらないよりはマシだろう。
「危険なことはしなくていい。いや、してはいけない」
先生は厳しい声で言った。
「三人の生徒が被害に遭っている。うち二人は命を落とした。もう一人も容体はまだ悪い。これ以上、一人も被害を出せない」
眼鏡の奥で先生はギュッと目を吊り上げる。
「君のやるべきことはただ、それらしい人間が分かったら私たちに教えるだけだ。後は私たちがやる。君が危険を冒す必要はない」
「ありがとうございます」
忍は心から言った。
先生が、忍のことを心配して言ってくれているのは分かる。それはとても嬉しかった。
「でも」
それでも。
「そうはならないと思います」
そんな風に言わないといけないのは、申し訳なかった。
「君は教師の指示に従えないのか」
先生は苛立たしげに言うが。
それは初めから、そういうものだったから。学校に巣食うモノと忍の戦いだったのだから。
ぶつかり合ってどちらが残るか。結局はそういうものになる。
だから、
「ごめんなさい」
とだけ言った。
先生はそれを聞いて驚いた顔をして、不満そうにうなり声をあげてから。
「何か出来ることはあるか?」
と聞いてくれた。
そう言われて忍は困る。
こんなことは初めてだから、忍にもこの後どんな風にものごとが展開していくか分からない。
一人じゃなければ心強いけれど。先生に手伝ってもらえるようなことがあるのだろうか。
黙り込む忍を見て、先生は落胆したように。
「ないのか」
と呟いた。
それを見たらものすごく悪いことをしたような気になり、同時にひとつだけ先生にお願いしたいことを思いついた。
「あのう」
忍は恐る恐る言った。
「無理だったらいいんですけど」
「何だ? 何でも言いなさい」
先生は急かすように言った。
「あの」
忍はちょっとためらってから。思い切って言った。
「私が眠るまで、傍にいていただけませんか?」
先生はそれを聞いた途端、すごくビックリした顔をした。
「い、いや。それはちょっと」
歯切れが悪くなる。
「ご、ごめんなさい」
忍はあわてて言った。
「無理だったら別にいいんです。言ってみただけです」
「いや、無理と言うか、その、君」
先生は咳払いをしてから、
「どうしてそんなことを?」
真面目な顔で尋ねてくれた。




