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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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3 隠れ棲む妖精 -4-

 それはつまり。

「管理しているヤツがいる、ってことか」

「そういうこと」

 撫子はうなずく。


「私、三か月くらいずっとこのサイトを監視してるのだけれど。少なくとも三十人くらいは女の子がいるみたいなのね」

 それは。結構な数だ。

「だから、遠からず問題が起こるとは思っていたのだけれど」


 私はうなずく。それだけの人数が援助交際に手を染めているのなら。早晩、絶対に問題は起こる。

 ただ、それは。殺人とか薬物とか。そんなことではなかったはずなのだけれど。


 妊娠。

 男性と交渉を持てば、女の子はいつかは妊娠する。いくら避妊をしても。三十人近い女の子が不特定多数と交際を続けていれば。必ず、誰かが妊娠する。それは避けようのない結末だ。


「それが、今回の事件とつながってるって言うの?」

 私はたずねる。

 けれど。もし、小林夏希が妊娠していたのなら。もっと問題は大きくなっていたはずだ。

 持ち物検査も、香りのするものの没収だけなんてヌルいことではなく。手紙や、メールまでチェックされるような大々的なものになっていた可能性が高い。十津見ならきっとそうする。そして、生徒たちも外出完全禁止くらい食らっていてもおかしくない。

 在校生が妊娠なんて。百花園女学院にとっては、そのくらいのスキャンダルだ。

 だから。この売春掲示板は小林千夏の事件とは関係ないのではないか。そう、私は思うのだけれど。


「私、そうじゃないかと思うのよ」

 撫子はのんびりと、うなずいた。

「いろいろ噂を聞いているとね。ここ一年くらい、校内で『フェアリー』という言葉が使われているようなのね」

 彼女も声を潜めた。これは撫子にとっても最高機密らしい。

「知っている子にしか通じない。知っている子も、軽々しくは使わない。そういう特別な言葉みたいなの」

 それをアンタは何で知っているのですか。そういう秘密を手に入れているこの女が何よりコワイ。


「私も何か月もかけてあっちこっちの情報をつなぎ合わせて、やっとつかんだのよ。フェアリーというのが、何を意味しているのかまでは私もまだたどり着けていないの。でも、とっても重要なことみたいなのね」

「ふうん」

 私は考えながら。クレープの最後のひとかけを、口に押し込む。

 この話のつながりで、コイツがこの話を始めたということは。

「じゃあ。今度の事件と、その『フェアリー』とやらが、何か関係あるっていうこと?」


「小林さんは、『フェアリー』という言葉を知っていたひとりなのよ」

 撫子は。重要情報を、アッサリと口にして、苺クリームクレープをお上品にもう一口かじった。クレープがまだ残っているのは撫子ひとりである。


「それで。あなたは、それが薬物のことだって思ってるの、撫子」

 私は聞いた。

「分からないって言ったでしょう?」

 撫子は答える。

「ただ、もう一つ分かってることがあって。『フェアリー』という言葉を知っている人間と、さっきのお花サイトに出入りしている人間が、重なっているようなのよ。もちろん、私がつかんでいるのは氷山の一角。でもね、だから」


「分かった。『フェアリー』は、売春、または薬物、どちらかに関わっている可能性が高い」

 私はため息をついた。

「あるいは、最悪の場合、両方か」


 自分の眉間にしわが寄るのが分かる。

 これは。想像以上のスキャンダルになる可能性がある。お嬢様学校の生徒が、薬物中毒の上に売春なんて。下手すると、学校のステイタス自体が大きく下がる。

 その場合。私たちの大学への推薦は、まあ系列校だから取り消されることはないだろうけど。卒業後の、就職だの結婚だのには随分影響するのではないか。他人事ではないのである。


「事態はよく分かったわ」

 私は。人気の少ない公園を眺めながらつぶやく。

「何ができるか分からないけれど、動いてみましょう。撫子。小百合。手を貸してくれるわね?」

「さすが、私たちの千草さん。そう言ってくれると思っていたわ」

 微笑む撫子。

「誰を叩きのめせばいいか、言ってくれたらいくらでも手を貸すよ」

 小百合は言いながら、撫子の手にある苺クリームクレープをガブリとかじる。


 うむ。情報戦なら撫子は最強だし。荒事になれば小百合の力は大きい。手駒としては、使える二人だ。


 とは言え。売春仲介サイトの運営者をつきとめるくらいならともかく。

 薬物を頒布しているとなれば、そいつは外部のアヤシイ方々とつながりがある可能性もある。

 そうなった時。たかが三人の女子生徒で何ができるか不安はあるが。いざとなれば警察に駆け込む手もある。

 このまま、自分の足元の花園に毒虫がひそんでいるのを看過するのも気持ちが悪い。


「とりあえず、小林夏希のことから調べましょう」

 私は。そこをとっかかりにすることにした。

 事件の起点は彼女だ。もし、彼女の死が、単なる通り魔によるものではなく、学園の闇に根ざすものであるのなら。彼女の周辺に、必ず手がかりがあるはずだ。


 フェアリーとやらが、何なのか。物なのか、それとも人なのか、今の時点ではさっぱり分からないけれど。

 私たちの心地よい居場所を荒らすような不届き者には、相応の報いを受けてもらわなくてはならない。


 何者であれ、きっと明るみに引きずり出してくれよう。

 私は、そう決心したのだった。


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