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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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2 スラップスティック・ナイト ~千草 -7-

 まるで心を読まれているようで、私は妹を見直した。けれど忍の顔はいつも通りの穏やかな幼い顔で。

 けれどその黒い瞳は暗い淵のようで。太陽の光の届かない場所に通じているような気がした。


 父方の祖母を思い出した。祖母は若い頃、住んでいた村で巫女のような仕事をしていたという。

 ちょっと浮世離れしているというか、変わった人なのだが。急な天気の変化を当てたり、不幸な知らせを予言したり、不思議なところがある人だ。

 その祖母が忍をとても気に入っていて、長期休暇に呼び寄せては特別にいろいろなことを教え込んでいるという話だった。この子にどこかこの世ならぬ雰囲気があるのは、そのせいなんじゃないかと思う。


 私は超能力だの不思議な力だのは信じない方なのだが、祖母といる時は少しだけ信じたくなることがある。

 そして今の忍はその祖母にとてもよく似ていた。


「ねえ、お姉ちゃん」

 忍は私から目をそらし、まだ騒ぎが続いているバスルームの方を見る。

「北堀さんってどんな人? どこを好きになったの?」

 そんな普通の話題が妹の口から出て、私は何だかホッとする。


「どんなって。まあ、あの通りの人よ」

 他に説明しようがない。ああいう人なのだと受け容れるしかないタイプの人だ、あれは。

「優しい? どうして結婚しようって思ったの?」

 どうしてって。挑戦されたからつい、とは言いにくい。


「えーと、まあ。優しいんじゃないかしら」

 多分。

「他には?」

 ツッコんでくる忍。

「そうねえ」

 私は観念した。妹はまだ小さいとなめていたが、それは過小評価だったようだ。いつの間にか私の妹は、容易ならない相手に育っている。

 かわせないと見て、私は本音を言うことにした。


「あえて言えば、一族の呪いよ」

「呪い?」

 忍は目をぱちくりさせる。

「そう。パパ方の親族って必ずとんでもない相手と結婚するって話、聞いたことあるでしょう?」

 うちの父もその例に漏れない。なにしろ黎明期のBL漫画家を発掘してきたくらいだ。


「一族の血ね。珍種を発見したら目が離せなくなるのよ。恐ろしいわね、遺伝って。あなたも気を付けなさいね」

 正直そのくらいしか、自分でも説明できない。

「忍は? 好きな人いるんでしょう?」

 私はちょっと意地悪な気持ちになってツッコミ返してみる。

「大丈夫? 呪いにかかってない? ちょっと教えてよ、誰が好きなの?」


 忍はたちまち真赤になった。こういうところは前のままの子供っぽい忍だ。

「ふふーん。もしかして」

 とても嗜虐的な気分になった私は、妹の顔を覗き込んで声を低める。

「十津見先生?」

 忍は耳や首筋まで真赤になった。ビンゴか。そしてその赤くなりっぷりがなんかエロいです、十三歳のくせに。


 忍をいじめるのはちょっと楽しかったが、明らかになった事実は正直ビミョウである。

 私はあんな義弟いらないぞ。成人までに、他に男がいることを忍にはよく知ってほしい。

 このまま突き進んでしまったら、それこそ完全に一族の呪いだ。そう言えばアレも、珍種と言えば珍種だもんな。

 ……と思ったら。大変不吉な予感がしたが。


 忍と克己さん。言い方は違うし、泣いていいとか泣く資格もないとか、逆のことを言ってくるけど。

 それでも。前を向けと私に言ってくれる。

 そんな人たちが傍にいて、私はとても幸せだなと思った。


 ゴメン、薫。私には何も出来なくて。

 見殺しにすることしか出来なくて。

 でも。

 

 あなたの周りにもこんな人たちがいたら、何かが違ったのではないかと思う。

 それを持つことが出来なかったのが一番悲しいことに、私には思えた。



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