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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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1 寒い廊下 ~千草 -5-

 で、そのうち怒鳴り声がやんで。十津見先生と嵯峨野先生が中に入って。しばらくして、嵯峨野先生だけが戻って来た。

「十津見先生が事情聴取に立ち会うことになったから」

 そう教えてくれる。ごり押ししきったのか、さすが私たちの十津見先生。


「忍さん、しっかり受け答えしていた。少し疲れてるみたいだったけど」

 そうだよね。私は時間の経過が把握できていないけれど。ずいぶん時間が経っているのは分かる。

 

「あのね。みんな、信じているからね」

 嵯峨野先生はそう言ってくれた。

「春から半年見て来て、忍さんがクラスメートを刺したりするような子じゃない、って思ってるから。きっと、疑いは晴れると思うから。だから、千草さんも気をしっかり持って」

 手を握ってくれる。


「遠山さんも、間島さんも、クラスのみんなも怒ってたから。忍さんがそんなことするわけない、って、警察に来て抗議するって言って大変だったの。そう伝えてあげてね」

 そうなのか。妹を、信じてくれる人が、他にもいるのか。

「嵯峨野先生」

 私は言う。

「忍、百花園が好きだって言っていました」


 先生も、友達も優しいって。

 いつも暗い顔をした小学生だったあの子が。ここに来て、居場所を見つけられたんだと。そう思う。

 だから、あの子は絶対に無実だ。こんなに心配してくれる人たちを、裏切れるような子じゃないんだから。


「そう。嬉しいわ」

 嵯峨野先生はやつれた顔で微笑んだ。

「自分で伝えてあげたかったんだけど、さすがに刑事さんたちが何人もいる前だと委縮しちゃってうまくしゃべれなくて。大丈夫だよ、待ってるからね、しか言えなかったのよ。その点、十津見先生はすごいわ、さすが男の先生は違うわ」


 何か(自分も含めて)あっちこっちで十津見先生の株が上がっているようですが。

 でも嵯峨野先生、それちょっと違う。男の先生だからじゃなくて、十津見先生だからです、ああいうごり押しが出来るのは。


「早く真犯人が見つかるよう祈りましょうね。うまくいくと信じて」

 そう言って、嵯峨野先生は帰って行った。けれど。その言葉はまた、私の胸を冷たく穿つ。


 先生。薫さんはもう、死んでしまったんです。

 二度と私たちの前で、あのほっそりした姿で、儚げに微笑んでくれることはないんです。

 忍の疑いが晴れても。何もかもが丸く収まったとしても。

 その喪失だけは、永遠に埋まることがないんです。


 それがやり切れなくて。私は、隣りに座る人の肩に、すがるように身をもたせ掛ける。

 彼は何も言わず、黙って私の重さを支えてくれた。


 その温かさだけが、私を私でいさせてくれた。



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