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花園で笑う  作者: 宮澤花
第3部 対決
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1 寒い廊下 ~千草 -4-

 その後のことはあまりはっきり覚えていない。吐き出して、泣いて、私はぬけがらのようになってしまったようだ。どのくらい、その寒い廊下に座っていたのかもよく分からない。

 気が付くと十津見がいて、他の先生たちと何か話したり、携帯でどこかに電話をしたりしていた。


 それから、山崎先生が私の方に来る。まあちゃんも一緒だ。

「雪ノ下さん。忍さんの聴取、まだかかりそうなんですって」

 そう教えてくれた。

「十津見先生が、同席させてもらえるよう、今警察の人にかけあってくれているから。嵯峨野先生はもう一度忍さんの顔を見てから、とおっしゃっているけど。申し訳ないけど、私たちはそろそろ」

 私は黙ってうなずく。多分、もう遅い時刻なのだろう。先生たちの聴取はとうに終わっている。


「どうもありがとうございました」

 話を切るように頭を下げると、山崎先生はちょっと哀しそうな顔をした。

「学校は、しばらく休校になることになったから。もう任意で一時帰宅も始まっているそうよ。あなたたちも、おうちでゆっくり休んで」


 私は返事が出来ない。

 こんなに長いこと、警察に事情を聞かれている忍はきっと、事件への関与を疑われている。

 家に帰っていいよ、と言われるけれど。どうせ、自宅謹慎扱いなのだろう。

 

「ごめんね。あのね、私たちは二人を信じているから」

 山崎先生は、そう言った。まあちゃんも、後ろで頭を下げた。

 ああ。まあちゃんに、もう一度相談しないとな。そう、ぼんやり考える。隠していたことを話して。どうするべきか考えて。警察に、どこまで本当のことを話したらいいのか。そんなことを打ち合わせなくては。

 そう思いながら、山崎先生と一緒に去っていく後ろ姿を見送った。


 十津見の怒鳴り声が聞こえて、そちらに顔を向ける。背の高い影の横で、嵯峨野先生がおろおろしていた。

「女生徒を何時間拘束するつもりだ」とか。

「一方的な犯人扱いは人権侵害だ。同席を要求する」とか。

 アンタが捕まるよ、くらいの勢いで。掛け合っているというより、ホント喧嘩を売っているだけみたいな。


 何か、アレだな。アレでも、普段は女の子相手だから穏やかにしてるんだな。みたいなことを思った。危険物だ、あの教師。

 それでも。

「バカバカしい。あの子に人を殺したりできるわけがないだろう。分かったら早く彼女を解放しろ」

 と。警察の人に居丈高に言っていた言葉は、素直に嬉しかった。


 この状況で。私でさえ、妹が疑われても仕方がないと思ってた。

 いや。妹が一連の事件の犯人じゃないと言える根拠を、全力で探してた。

 でも。信じる気持ちというのは、もっと単純でいいのかもしれない。

 疑わしい状況とか、機会とか、動機とか可能かどうかとか。そんなことを全部飛び越えて。

「バカバカしい。ありえない」

 そんな一言で表明される、率直な信頼。そんなものが、今の私にはものすごくありがたかったりする。


 忍、良かったね。アンタの好きな先生、アンタを信頼してくれてるよ。

 まあ、警察の人にケンカ腰で話をしなくてもいいとは思うけど。アンタまで疑われなくてもいいから。


 けれど、そんな意外な愚直さを。悔しいけれど、ちょっといいなと思ってしまった。

 十津見先生。ありがとうございます。



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