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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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3 隠れ棲む妖精 -2-

 翌朝、後期初日は。講堂での全校集会から始まる。普段とは違う、緊張した雰囲気が講堂内には漂っていた。

 理事長である内山華子先生自らが壇上に立ち、『今回の痛ましい出来事』についてのお話と、『薬物疑惑』についてのお話をなさった。


 更には、小林嬢が『十代の少女がひとりで歩くべきではない』繁華街を歩いていたことについてお嘆きになり。『皆さんの誰もが薬物などという下劣なものに関わりがないことを証明するために、厳格な所持品検査を続けること』への理解を求め。何か知っていることがあれば、職員に必ず知らせるように、と何度も繰り返し訴えられ。


「亡くなった小林さんのために祈り、再びこのような悲しい出来事が起きないよう、皆さんで心を合わせて過ごして参りましょう」

 と締めくくった。


 続けて十津見から、説明。

「没収した物は、参考のため警察による検査を受ける」

「寮則に照らして問題のない物は、その後順次返還される」

「寮則は今後変更される可能性がある」

 それに加えて。


「悲しむべきことに、今回の検査で現行の寮則に抵触する物品が大量に寮に持ち込まれていたことが発覚した。わが校生徒のモラルの低下は大変嘆かわしいことであり、これまでの数多くの卒業生たちが悲しむことになるだろう。これを機に自分の生活を見直し、百花園生らしい振る舞いをするよう努めてもらいたい」

 などと言葉を重ねる。

 しかし。なぜあなたはそんなに楽しそうなのか、十津見! 私たちをこき下ろすネタが出来て喜んでいるようにしか見えないんだけど。


 要するに、寮則も校則も、今まで以上に厳しく執行されるようになり。規則自体も改正され、より女学生ライフが窮屈なものになる可能性が高いと。そういうことを、あの教師は言いたいらしい。

 私は腹立たしくなる。

 十津見にももちろんだが、それ以上に小林夏希という死んだ一年生に。


 彼女が殺されたことは気の毒だし、犯人に対する怒りは私の中にもある。

 だけど。薬物については、また別だ。

 彼女が薬物をやるのは自由だ。一時の快楽のために多大な代償を払う性質の行為だが。自分でそのツケを払っている分には、私の知ったことではない。それも含めて、自己責任だ。

 だが。白昼、惨殺されるようなツケの払い方は困る。おかげで全校生徒が迷惑をこうむっているではないか。

 薬をやるならやるで、殺されるなら殺されるで。他人に迷惑をかけるようなことはするなという話だ。

 彼女の死に様は、最悪だった。


「撫子」

 講堂から教室への帰り道。私は撫子に声をかける。

「詳しく話を聞きたいわ」

 それだけで、相手は何のことか察する。こういうカンの良さがこの女のいいところだ。面倒くさい点でもあるが。

 撫子は、小林夏希の死について既にいろいろなことを知っているだろう。私はそれを、確信している。


「そうね。じゃ、放課後みんなでクレープを買って、中央公園で食べましょう」

 撫子は、おっとりと言った。つまり。校内では話せないということだ。

 私はうなずいた。厳格な校則に縛られる百花園生だが、授業終了後から寮の門限の七時までは、校外に出ることも許される。


「分かった。小百合も付き合いなさい」

 前を歩く小百合の、長い三つ編みを引っ張る。

「いてっ。何だよ千草。人の髪を引っ張るな」

「あら。しっぽのようだもの、つい引っ張りたくなってしまうでしょ」

 私はにっこりほほ笑む。


「そんな理由で引っ張るなよ」

 小百合はご機嫌斜めだ。

「アタシ、行けない。放課後は風紀委員会だから」

 説明しよう。何と小百合は、我がクラスの風紀委員なのである! 一番風紀を守らない人間にこの役職を振った、我がクラスの面々のセンスは素晴らしいと思う。


「どうせ、十津見が御託たれるのを聞いて来るだけでしょ。いいわ、待ってる。終わってからみんなで行きましょう」

 私は言った。それはそれで、情報源になるかもしれないし。


 そんなたわいない会話とは裏腹に。

 内心では、厭な予感が渦巻いていた。


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