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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
126/211

8 決意 -5-

 学校に戻って、先生方と別れて。生徒用の昇降口で靴を履きかえる。と。

「お姉ちゃん」

 掲示板の前に、お姉ちゃんが立っていた。忍と目が合うと、軽く片手を挙げる。

「忍。今、ちょっといいかしら」

 小声で言う。挨拶以外のことを話すのは、廊下での私語禁止に当たるからだ。


「どうしたの?」

 忍も小声で答える。

「うん、ちょっとね」

 お姉ちゃんの答えは歯切れが悪い。


「千草お姉さま、ごきげんよう」

「忍さん、先に行ってるね」

 気を遣ってくれたのか、間島さんと都ちゃんはそう声をかけて先に行ってしまった。忍はお姉ちゃんと、二人で残される。

 お姉ちゃんは一緒に生徒用ロビーで話そう、と言った。


 この前、ここで話した時は姉妹ゲンカみたいになってしまったので、ちょっと気まずい。

 でも、お姉ちゃんは怒ってはいないみたいだった。

「昨日、ママからメール来てたでしょう?」

 そう聞かれた。

「え。ああ、うん」

 来ていた。だいぶ心配している様子のメールが。


 うなずくと、

「返信した?」

 とまた聞かれる。

「うん。事件のこと、心配してるみたいだから、学校も考えてるみたいだから大丈夫だよって」

 それを聞いて、お姉ちゃんは「あー、ふーん」と、ため息をつく。

「私の方に電話が来た」

 そう言う。

「アンタの校則違反のこと、だいぶ心配してた。全部、くだらないちょっとした校則に引っかかっただけだ、って説明しておいたけど」

 

 忍は赤くなった。校則違反をすると、家にも連絡が行くのだ。それに、違反者の名前は昇降口に掲示されるから、当然お姉ちゃんも知っている。そう思うと、凄く恥ずかしく。

「ありがとう、お姉ちゃん」

 お礼を言う声も、小さくなってしまった。


 お姉ちゃんはもう一度ため息をついた。

「アンタも、気を付けなさいね。先に言っておくけど、ママがまた、転校のこと言ってた」

 ドキッとする。

 やっぱり、ママは今も忍を家に帰したいと思っているのか。

 百花園から引き離して、あの家へ。彩名や、その仲間たちが近くに住むあの場所へ、連れ戻そうとしているのか。

 

 やっと、居場所が出来そうなのに。

 ひかりちゃんやクラスのみんなや十津見先生。ここにいられれば忍は息がつけるのに、そこから引き離されてしまうのか。


 黙り込んだ忍に。

「転校したくないんでしょ?」

 とお姉ちゃんが聞く。忍は黙って、首を縦に振った。

「百花園は好き?」

 また聞かれる。それにも、忍はうなずいた。

「友達も出来たし。先生も、優しい」

 肩に載せられた、十津見先生の大きな手の感触を思い出す。先生がいてくれるだけで。忍はここで頑張れる。そう思える。


 お姉ちゃんはしばらく忍を見て。それから、言った。

「ねえ。星野志穂さんのグループと、うまくいっていないんでしょう?」

 心臓が止まるかと思った。どうして、お姉ちゃんがそのことを。


「階段から突き落とされたって聞いたわよ。ケガをしないで済んだのは運が良かったけど、ちょっと間違ったら大変なことになっていたわ」

 それも。あの時、あそこにいた者しか、知らないことのはずなのに。

 

 忍は顔を上げる。

 お姉ちゃんはまっすぐに忍を見ていた。黒くて丸い瞳。力強いまなざし。


 お姉ちゃんは正しい。正しくて、強い。

 でも。その正しさは、とても厳しい。


「忍。アンタ、本当に大丈夫なの」

 まっすぐなその人は。まっすぐに、忍に斬りつける。

「小林夏希さんについて、いったい何を知っていたの」

 と。そう、お姉ちゃんは言った。


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