8 決意 -2-
駅前までは二十分ほどかかる。百花園の坂を下った先の、昔ながらの商店街を抜けて。しばらく歩かなくてはいけない。駅の周りには全国チェーンのお店が多く、ネットカフェとかゲームセンターとか、百花園生立ち入り禁止の場所も多い。
ショッピングモールは一昨年オープンしたものだ。昔は映画館とかデパートがあったらしいが、不景気でどっちも撤退してしまったそうだ。その跡地に出来たモールは、いつもにぎわっている。
「ここ! ここです、ここ!」
早速目当ての店を見つけて、間島さんが大声を出す。道行く人たちが振り返って見ている。
「間島さん」
嵯峨野先生が注意した。
「公共の場で大声を上げない。百花園生らしくありませんよ」
「ハイ」
しゅんとする間島さん。悪いが、嵯峨野先生の注意はもっともだと忍も思う。間島さんが騒いでいたのは、よりによって下着専門店。嵯峨野先生以外は入ってはいけないのではないかと思うような、大人っぽい店だった。
だが、先生も間島さんも都ちゃんも、どんどん中に入っていく。
嵯峨野先生は店員さんを見つけて、
「あの。電話した者ですが」
と声をかける。さすが嵯峨野先生、あらかじめ必要な物があるか問い合わせてくれたらしい。
「ああ、ハイ。ガーターベルトですね」
店員さんがうなずく。
「この子なんですけど」
間島さんが忍を前に押し出す。すごく恥ずかしい。
「サイズはSでいいですか?」
と聞かれた。忍はうなずく。
店員さんがいろいろ商品を出してくれる。
「ああ! このバラが付いてるのカワイイ!」
「赤もいいなあ! 黒か白のイメージだったけど、赤もいいなあ!」
都ちゃんと間島さんが、さっそく盛り上がる。
「同じデザインのショーツもありますよ」
と、店員さんが出してくれるが。レースだらけで、スケスケで、気が遠くなる。
「あ、いいんです。それは見せないから」
間島さんがスパッと言って、店員のお姉さんは不思議そうな顔になる。
「舞台の衣装に使うんですよ」
先生が説明した。
「そうだよね。考えてみたら、ベルトのとこしか見えないんだよ。上のレースは見えないんだから、可愛くても意味ないじゃん」
都ちゃんが気が付いたように言った。
「先にストッキングの方を見ようよ。それに合わせて、ベルト決めよう」
今度はたくさんのガーターストッキングが出される。どれもセクシーで、またも忍はクラクラする。
「リボン。リボンいいなあ」
「蜘蛛の巣柄……。これはこれでイメージな気が」
「この紐で縛られてるみたいなヤツも良くない?」
「リボン柄でございますね。こちら、人気商品ですよ」
またしても、都ちゃんと間島さん、店員さんも加えて盛り上がる。
「ヤバいね、忍、どれも似合いそうだから迷うなあ」
こういうものが似合うと言われるのはホメ言葉なのか、どうなのか。忍はとても、ビミョウな気がする。
結局、衣装の形と舞台映えを考えて、ゴム部分に大きなリボンがついている白のストッキングと。インパクト重視で、真っ赤なガーターベルトを買うことになった。
これは忍が直接肌に付けるものだから、自分で買うことになる。
「派手すぎないかなあ」
忍は尻込みする。これを身に着けるのかと思うと、単純に恥ずかしい。
「いいんだよ、舞台なんだから目立たないと」
間島さんは簡単に言ってくれる。
「大丈夫。忍じゃなくて、サロメが着るんだから。そう思えば平気でしょ?」
理屈は分かるが。あまり、そういう風に割り切れない気がする忍だった。




