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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
123/211

8 決意 -2-

 駅前までは二十分ほどかかる。百花園の坂を下った先の、昔ながらの商店街を抜けて。しばらく歩かなくてはいけない。駅の周りには全国チェーンのお店が多く、ネットカフェとかゲームセンターとか、百花園生立ち入り禁止の場所も多い。

 ショッピングモールは一昨年オープンしたものだ。昔は映画館とかデパートがあったらしいが、不景気でどっちも撤退してしまったそうだ。その跡地に出来たモールは、いつもにぎわっている。


「ここ! ここです、ここ!」

 早速目当ての店を見つけて、間島さんが大声を出す。道行く人たちが振り返って見ている。

「間島さん」

 嵯峨野先生が注意した。

「公共の場で大声を上げない。百花園生らしくありませんよ」

「ハイ」

 しゅんとする間島さん。悪いが、嵯峨野先生の注意はもっともだと忍も思う。間島さんが騒いでいたのは、よりによって下着専門店。嵯峨野先生以外は入ってはいけないのではないかと思うような、大人っぽい店だった。

 だが、先生も間島さんも都ちゃんも、どんどん中に入っていく。


 嵯峨野先生は店員さんを見つけて、

「あの。電話した者ですが」

 と声をかける。さすが嵯峨野先生、あらかじめ必要な物があるか問い合わせてくれたらしい。

「ああ、ハイ。ガーターベルトですね」

 店員さんがうなずく。


「この子なんですけど」

 間島さんが忍を前に押し出す。すごく恥ずかしい。

「サイズはSでいいですか?」

 と聞かれた。忍はうなずく。


 店員さんがいろいろ商品を出してくれる。

「ああ! このバラが付いてるのカワイイ!」

「赤もいいなあ! 黒か白のイメージだったけど、赤もいいなあ!」

 都ちゃんと間島さんが、さっそく盛り上がる。


「同じデザインのショーツもありますよ」

 と、店員さんが出してくれるが。レースだらけで、スケスケで、気が遠くなる。

「あ、いいんです。それは見せないから」

 間島さんがスパッと言って、店員のお姉さんは不思議そうな顔になる。

「舞台の衣装に使うんですよ」

 先生が説明した。


「そうだよね。考えてみたら、ベルトのとこしか見えないんだよ。上のレースは見えないんだから、可愛くても意味ないじゃん」

 都ちゃんが気が付いたように言った。

「先にストッキングの方を見ようよ。それに合わせて、ベルト決めよう」

 今度はたくさんのガーターストッキングが出される。どれもセクシーで、またも忍はクラクラする。

「リボン。リボンいいなあ」

「蜘蛛の巣柄……。これはこれでイメージな気が」

「この紐で縛られてるみたいなヤツも良くない?」

「リボン柄でございますね。こちら、人気商品ですよ」

 またしても、都ちゃんと間島さん、店員さんも加えて盛り上がる。

「ヤバいね、忍、どれも似合いそうだから迷うなあ」

 こういうものが似合うと言われるのはホメ言葉なのか、どうなのか。忍はとても、ビミョウな気がする。


 結局、衣装の形と舞台映えを考えて、ゴム部分に大きなリボンがついている白のストッキングと。インパクト重視で、真っ赤なガーターベルトを買うことになった。

 これは忍が直接肌に付けるものだから、自分で買うことになる。


「派手すぎないかなあ」

 忍は尻込みする。これを身に着けるのかと思うと、単純に恥ずかしい。

「いいんだよ、舞台なんだから目立たないと」

 間島さんは簡単に言ってくれる。

「大丈夫。忍じゃなくて、サロメが着るんだから。そう思えば平気でしょ?」

 理屈は分かるが。あまり、そういう風に割り切れない気がする忍だった。



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