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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
122/211

8 決意 -1-

 翌日からは、空き時間があればひたすら稽古と発声練習。古川さんと星野さんの目はまだ冷たいけれど、みんなは少しずつ、いろいろアドバイスをくれるようになってきた。

 そして、あっという間に木曜日。百花祭は目の前になった。


「千草お姉さまから、忍のことどう、って聞かれたよ」

 間島さんが言う。そう言えば、彼女とお姉ちゃんは同じ寮だ。

「つい、忍、って言いそうになっちゃって。あわてて忍さんって言い直したよ」

「忍さんって言った方が百花園らしいよね」

 ひかりちゃんもうなずく。

「でもさ。何か恥ずかしいよね、自分で言うの」

 みんなうなずく。お姉さま方と話す時は、百花園生らしい話し方を心がけるのだが、一年生同士だと普通の話し方になってしまう。


「でも、みんなそうなんじゃないかな」 

 忍は恐る恐る言う。

「うちのお姉ちゃんも、学校で話す時は百花園しゃべりだけど。家だと普通だし、仲の良いお姉さまと電話で話す時は呼び捨てにしたりしてるし」


「えーっ、あの千草お姉さまが?!」

 間島さんはビックリしたようだった。

「百花園生の鑑って感じなのに。普通のしゃべり方するところ、想像がつかない」


「うーん。うちのお姉ちゃんって、なんて言うか、強いよ?」

 どう説明したらいいものか。忍は悩む。

 しかし、お姉ちゃんが小学生だった時代。中学生すら姿を見ると避ける、近所の実力者であったことは確かである。

「あー、うん。コワイ人だっていう噂は聞いてる」

「私、千草お姉さまは百花園の魔女だから関わるなって寮のお姉さまに言われた」

 何だかお姉ちゃんの話題で盛り上がる皆。


「あー、それ。千草お姉さまの前で絶対に言うな、って教えられた」

 間島さんが怯えた顔で言う。

 お姉ちゃん。百花園でもどれだけ恐れられている存在なのか。


「ちょっと百花園生っぽくしゃべってみようか」

 誰かが言い出して、みんなもやろうやろう、と乗った。

「それでは」

 間島さんがコホンと咳払いする。

「衣装直しのための外出許可が出ましたわ。嵯峨野先生が付き添って下さるそうですから、今日の放課後まいりましょう。都さん、忍さん、一緒に来て下さいませね」

 人が変わったような流暢で上品な言葉遣いに、みんな笑った。


「ちょっと。ウケるー」

「間島、別人になってる」

 間島さんはみんなを軽くにらんだ。

「皆さま。今、百花園生らしく話すと決めたばかりではありませんの。言い直してくださいな」

 そう言われて。声を上げた子たちは難しい顔になる。

「ええと。美空さん、ウケますわ。じゃ、おかしいか……美空さん、おかしくてよ。かな? なんか変な気がする……」

「美空さん、まるで別人ですわね。うわ、キモ。自分がキモ」

 また大笑いになった。


「やれやれ。立派な百花園生への道は遠いな」

 美空さんは元の口調に戻って肩をすくめた。

「でも、みんな寮ではやってるんだから。そのうち慣れるんじゃないの?」

 ひかりちゃんが言う。確かに。寮ではお姉さま方に注意されるから、何とか百花園生しゃべりをやっているのだ。


「卒業する頃には、お姉さまたちみたいになるのかなあ」

「想像できないね」

「私たち、まだ入ったばっかりだもんね」

 みんなで顔を見合わせ。そんな未来を想像し、くすくすと笑い合う。

 六年生のお姉さまたちのように堂々と、百花園生らしく振る舞っている自分たち。

 何だか想像できない。


「ま、そういうことだから。忍、中山、後で付き合ってくれ」

 間島さんはそう言って、みんなの輪を離れていった。

「外出するの?」

 ひかりちゃんが聞いてくる。忍はうなずいた。


「忍の衣装、だいぶ変更になったから。追加素材を買わないと、どうしようもないんだ。特に、レースとかレースとかレースとか」

 都ちゃんが説明してくれる。

 ひかりちゃんは、ああ、とすぐに首を縦に振った。

「ホントにやるんだ。でも、材料買ってくるだけなら中山と間島で良くない? イメージは出来てるんでしょ」


「でも、やっぱり忍がいないと。似合うか似合わないかを実地で見たいし、それに忍が行かないと買えないものもあるから」

「何、それ?」

 ひかりちゃんは首をかしげた。

 忍は困った。ちょっと、口に出しては言いにくい。

「あの。買ってきたら、見せるから」

 そう小さい声で言うと。ひかりちゃんは不思議そうに、うなずいた。



 放課後。各寮で外出届を済ませた後、昇降口の前に集まる。もちろん、みんな制服だ。

「お待たせ」

 嵯峨野先生が、後から来た。

「間島美空さん、中山都さん、雪ノ下忍さん。みんなそろってるわね。では外出に行きますが、最近の事件のことを考慮に入れ、十分に気を付けること。これ以上、我が校の生徒が事件や事故に遭うのはイヤです」

 困ります、ではなく、イヤです、と言うところが温かみを感じさせる。

「じゃあ、出発しましょう。駅前のショッピングモールでいいのね?」

 先生は軽快に歩き出した。



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