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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
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7 秋の四辺形 -4-

 車は十分ほど走って、小さな店の駐車場にとまった。

「天気が良ければ、水平線の辺りまで星が見えるのだが」

 先生は海を見て、ひとりごとのように言った。

「今日は少し雲が出ているな」


 忍もつられて海を見る。そこは黒くて、昼間見るのとは違う静けさをたたえている。空も、水平線の近くには雲が多かった。細い刃のような月が雲の間を見え隠れする。


 先生は先に立って店の扉を開けた。

「いらっしゃいー」

 カウンターにいた若い男の人が、気がなさそうに言う。それから顔を上げて先生と忍を見て、目を丸くした。

「うわ。センセーが女の子連れてる」

「生徒だ」

 先生は素っ気なく言って、窓際の席に腰を下ろした。忍も慌ててついて行く。他にお客はいないようだ。


「好きなものを頼みなさい」

 先生はメニューを渡してくれた。

 洋食がいろいろあるようだが、忍は何にしたらいいのか迷う。カレーじゃ子供みたいだし、匂いがするし、こぼしたら最悪だし。パスタは綺麗に食べるのが難しそう。先生と二人なんて緊張するし、何を頼んだらいいのか分からない。


 結局、

「ミートドリアをお願いします」

 と小さな声で言った。それなら何とか、先生に見られても恥ずかしくないくらいに行儀よく食べられそうな気がした。

「生姜焼き定食」

 先生は短く言う。


「はいはいはい」

 店のお兄さんは軽くうなずいた。

「あ、お嬢ちゃんには飲み物とサラダをサービスするからね。オレ、可愛い女の子は大好きだから」

 明るく言われて、忍はまたビックリする。

「早く厨房に行ってもらえないか」

 先生がお兄さんを冷たく追い払った。


 料理が来るまでの間。何を話したらいいのか分からず、黙ったままでいる。

 先生も別に何も言わなかった。


 やがて、お兄さんがサラダと紅茶を持ってきた。

 先生の前にはポットとカップ、そしてサラダを置いただけだが、忍には丁寧についでくれる。

「最高級ダージリンでございますー。あ、先生のヤツは業務用の安い茶葉。これは可愛い女の子用。今度、先生抜きでぜひまた来て。友だちもつれて来てくれると嬉しいなあ。あ、もちろん女の子限定で」


「この店は、客が少ないのが取り柄だが。店主がうるさいのが欠点だな」

 先生が辛辣な口調で言った。

「何だよー。話がはずんでないみたいだから、盛り上げてあげようと思ったんじゃないかよー」

「そんなことは頼んでいないし、必要ない。君は仕事に戻れ」

 また追い払われている。


 忍は目を丸くしてその様子を見ていた。

「あの男のことは気にしないように」

 先生が言った。

「あれで料理は悪くないが、とにかく口数が多い。それと、生徒だけでこの店に来るのは禁止だ」

 それきり黙ってしまう。

 そのまま、静かにサラダを食べた。食べ終わる頃に、メインの料理が来た。忍の前に、ドリアの皿。先生の前にはご飯とお味噌汁、生姜焼きのお皿。


「お待たせ」

 料理を置いた後も、お兄さんはニコニコしたまま横に立っている。

「もう用はないが」

 先生が言うと、お兄さんはなぜだかいっそう笑顔になって、空いた椅子を引っ張って来て勝手に横に座った。先生は迷惑そうな顔をする。

「食事の邪魔だ。席を外してくれ」

「いいじゃんか。先生が生徒に手を出さないよう監視をしているんだよ」

 先生は咳き込んだ。


「君、言っていいことと悪いことが」

「だって、この状況ヤバくない? ヤバいでしょー。お嬢ちゃん、何年生?」

「い、一年です」

 つい答えてしまう。

 お兄さんはうへえ、とヘンな声を上げた。

「中一かあ。先生、これはもう犯罪だよ? いかんでしょう、中学生の教え子をたぶらかしちゃあ。オレも女子中学生とデートしたい。誰か紹介して」



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