表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
115/211

6 初稽古 -4-

「忍、寸法取っちゃお。どっちにしても、肩幅は合わせなきゃ」

 都ちゃんが声をかけてきた。

「中山、この衣装どうやって直すの?」

 ひかりちゃんが訊ねる。


「ダーツ取っちゃう」

 ファッションデザイナー志望の都ちゃんはこともなげにそう言った。

「忍、ちょっとブラ取って。ダーツの寸法計るから」

「ええ?!」

 忍はビックリしてまた、胸を押さえる。

「だって、そのままじゃどのくらい胸が出るのか分かりにくいし。大丈夫、すぐ終わるから」


「本番、どうするの。胸のとこ」   

 ひかりちゃんが聞く。

「うーん。忍が気になるなら、当て布してもいいと思うけど。透けないヤツ」

 都ちゃんは少し首をかしげる。


「そうしてほしい」

 忍が間髪入れずに言うのと。

「それダメ。せっかくエロいのに。レース! レース!」

 間島さんが言うのが同時だった。

「間島、エロって言いすぎ」

 都ちゃんが呆れたように言う。


「だって、悪人は俗で汚れてないとヨハネが引き立たないじゃない。宮井の時はダンスでそれを表現したんだけど、雪ノ下は違うじゃん」

 それを聞いて、忍はちょっと情けなくなる。

 宮井さんにはダンスという武器があるけれど。代役の自分は、衣装に助けてもらうしかないわけか。


「はい、これイメージ」

 間島さんが描き上がったスケッチをみんなに見せた。

「間島、絵、下手」

 笑い声が上がる。

 忍も苦笑いした。夏休み前に最初のイメージ画を描いた時にも、間島さんの絵は何というか個性的で。みんなで、何が描いてあるのかいちいち確認したのだ。


「分かんないかなあ」

 間島さんは、がっかりした様子で肩を落とす。

「いや、分かるけど。前期のよりは」

 都ちゃんが言う。

「うん。つまり、今肌が見えてるところをレースで覆うんだよね。後ろの大きいリボンとか、可愛い感じ。裾、三段かあ。今からやってる時間あるかな」

 首をかしげる。

「被服部のお姉さまたちに聞いてみないと、出来るか分からないよ」

 都ちゃんは被服部員だ。被服部というのは、要するに服を縫って作ったり編み物をしたりする部である。


「オーケー。市原先生に見せてくる」

 間島さんはそう言って、立ち上がった。


「じゃあ、忍、どっちにしても採寸しちゃうから」

 都ちゃんに言われ。仕方なく、ブラジャーを外して衣装をじかに身に着け、手を広げて立つ。

 少し前まで、ブラは着けていなかったのに。今は、はずすと何だかスースーして落ち着かない。女子校だから、更衣室に行ったりする必要もなく、広い教室の中で堂々と着替え出来てしまうのが、楽なような、恥ずかしいような。


 都ちゃんは手際よく採寸を進めていく。頭の中で、もうちゃんと衣装が出来上がってるみたいだ。忍は、言われたとおりに縫うだけだったけれど。都ちゃんは自分で考えて、どこを縫うのか、どこを切るのか全部決める。

 百花園には、小学校とは違ういろいろな人がいて。やっぱり、面白いなと思う。


 脚の長さをはかり終わったところで、三時間目終了のチャイムが鳴った。

 この後も続けて家庭科なので、みんなのんびりしている。都ちゃんは別のグループの採寸に呼ばれて行った。


「間島、まだ市原先生と話してるね」

 ひかりちゃんがそっちを眺めて言った。間島さんは、市原先生に『エロの必要性』を訴え続けている。

「アイツも変わってるよね。優等生かと思ってたけど」

 確かに。

 忍もつい、うなずいてしまう。普段の間島さんは冷静な優等生という感じなのだが、お芝居のことになると人が変わるみたいだ。


「忍ー。四時間目、衣装の手伝いしてくれる? ヨハネやヘロデ王の衣装を先にやっつけちゃうから」

 都ちゃんが離れたところから声をかける。

「分かった」

 忍はそう言って。

「これ、脱いだ方がいいかなあ?」

 と。サロメの衣装を指してひかりちゃんに聞く。


「そうだね。もう制服に着替えてもいいんじゃない?」

 ひかりちゃんもうなずく。

 こういう時は更衣室が欲しいな、とちょっと思う。女子しかいないこの学校に、女子更衣室というものはないが。いくら女子同士でも、みんながいるところで、自分ひとりだけ着替えるのはちょっと恥ずかしい。


 と、思った時。

「雪ノ下さん、十津見先生が呼んでるよ」

 廊下側にいたクラスメートが声をかけた。

「急げって」


「え、十津見先生?」

 何の用だろう。風紀委員の連絡かな。忍は手に取りかけていた制服を置いて。あわてて家庭科室の外に飛び出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ