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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
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5 呼び出し -6-

 気が付くと、駅の近くにいた。

 どうやってここまで来たのか、思い出せない。小さい頃から住んでいる町だから。無我夢中で走って来てしまったのだろう。


 このまま帰ろう。そう思った。

 学校は遠い。それに寮生活だ。寮に閉じこもってしまって、メールも電話も着信拒否にしておけば。……もう、彩名と関わらなくて済む。家に帰って来ても、あまり外に出ないようにしよう。そうすれば、きっと大丈夫。きっときっと、大丈夫。


 駅舎に続くスロープを上ろうとして。ドキリとした。

 前から、見覚えのある姿が下りてくる。茶色い髪、ピアス。派手な服装。タケヒロと呼ばれていた、あの男の人だった。

 彩名に言われて、自分を探しているのかもしれない。そう思うとまた。心臓が早鐘を打ち始める。急いで、物陰に隠れた。上ろうとしていたスロープの横を通って。柱の陰に身を隠す。


 そっとのぞいて見ると、彩名とも、彩名のお母さんとも違う人が一緒に歩いていた。

 髪が長くて、背が小さいその女の人の顔を。どこかで見たことがある気がした。はいているスカートは、百花園の制服に見えた。


 どこで会った人だろう。確かに会ったことのある人だけれど、思い出せない。

 柊実寮のお姉さまではないと思う。さすがに、同じ寮のお姉さまなら顔くらいは分かる。


 二人が行ってしまった後も、そこで考え続けていると。

 

 後ろから誰かに肩を叩かれて、心臓が凍りつきそうになった。

 彩名か? タケヒロか? それとも、ママ?

 恐ろしくて、振り返れない。


 その緊張を。

「雪ノ下忍」

 聴き慣れた低い声が、ほどいてくれた。振り返ると、忍の肩に手を置いて立っている人は、十津見先生だった。


「ここで何をやっている?」

 そう言ってから、先生は。自分の左腕にはめた腕時計を見て、時間を確認した。

「寮まで二時間はかかるはずだが。今から戻ったらギリギリなのではないかね」

「あ、あの」

 忍はあわてて言った。

「今、帰ろうとしたところで」


「それに、その服装は校則違反だな」

 先生は忍の言葉を最後まで聴かずに、厳しく言った。

「学期中に寮から外出する時は制服だと、校則に書いてあるはずだが。読んでいないのか」

「申し訳ありません」

 忍は下を向いた。それについては、申し開きできない。


 先生は忍の肩をぐいと押した。

「私も戻るところだ。寮まで送ろう」

 メガネ越しの目が、ジロリと忍をにらむ。

「寮へ戻らず、どこかへ遊びに行かないようにな」

 

「そんなことしません」

 思わず、忍は先生の顔を見上げ、強く言った。自分が今いたいのは、百花園で。先生の傍なのだ。

 他のところになんて。行きたくない。


 先生は驚いたように忍を見て。それから、ぱっと手を離した。

「では、急ぎなさい。電車が来てしまう」

 そう言って。速足で、前を歩き出す。忍は慌てて、その後を追った。


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