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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
106/211

5 呼び出し -3-

「だけど、遠山の言うことも一理ある」

 間島さんは言った。

「悪いけれど、受けてもらえるならサロメは徹底的に悪役にする。事情が事情だからね。ヨハネは小林の暗喩となるから、何の罪もなく殺されなくてはならない。ヨハネを殺すサロメは、現実の殺人犯の投影にしないといけない」


 現実の殺人犯。

 その言葉は。忍の胸に突き刺さる。

 同じ教室で学んでいた小林さんの命を。その手で断った人が、現実に存在する。


「だから。サロメの役は、観客にかなりひどい印象を与えることになるよ。そうでないと困るし。もちろん、クラスのためにやることだから、そのせいでイジメなどクラス委員の名に懸けて許さない。私の目の届く限り、この件が原因で孤立しないように協力する。それは約束する。でも、六年間ずっと同じクラスになれる保証はない」


 顔を上げると。自分を見ている間島さんと、目が合った。

 ああ。この人は、まっすぐな人なんだな。そう直感した。


 忍は。目をつぶる。大きく息をつく。

 金曜日、この場所で感じた世界の息吹。

 先生に言われた言葉を思い出す。


 忍に出来ること。

 あの黒いものを容認するのか、しないのか。

 容認は、したくない。でも、自分に何が出来るのか分からない。

 これが、そのことにつながるはずもない。

 けれど。


「やる」

 忍は言った。

「やってみる」


「忍?!」

「雪ノ下。本当にいいのか?」

 目の前の二人が。驚いたように忍を見る。


「うん」

 忍はうなずいた。

「自分に出来ること、やってみたい。それに」

 少し赤くなる。

「間島さんの言うみたいに、大きな声出せるようになりたいかもしれない」


「忍。ホントに大丈夫?」

 ひかりちゃんが心配そうに言う。

「ウン。頑張ってみる」

 それに。忍は笑って、うなずいた。


「何か、イメージふくらんできたな」

 間島さんが呟いた。

「雪ノ下、少しセリフ変えてもいいかな? いいよね、記憶力良さそうだから。大丈夫、ダンスシーンはカットだし、全体の出番は減るから! 君のイメージで書き直す。明日には間に合わせる!」


 それじゃ、と言って。

 間島さんは、あっという間に身を翻し、桜花寮の方向へ走り去ってしまった。


 残された忍とひかりちゃんは。顔を見合わせる。

「なあに、アイツ。演劇のことになると人が変わる、っていう噂だったけど、ホントなんだ」

「面白いね」

 忍も言った。

「優等生なイメージしかなかったけど。いろんな面があるんだね」


 それから二人は。笑いあう。

「私も協力するから。頑張れ、忍」


「ありがとう」

 忍は言った。

 ちょっとだけ。ひかりちゃんの隣りにいる自分を、許すことが出来るような気がした。



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