5 呼び出し -2-
忍はびっくりした。ひかりちゃんも、横で驚いた顔をして。
「なんで忍なの?」
そう尋ねると、間島さんはちょっと困った顔をした。
「雪ノ下、衣装だけだからもう仕事ほとんど終わってるし。セリフ、全部覚えてるでしょ? 宮井、セリフがまだ抜けてるところがあるから、プロンプターやってもらおうと思ったりもしてたんだ、実は」
その言葉にちょっと歯切れの悪いものを感じて、忍は訝しむ。
でも、自分で何か言う前に、ひかりちゃんが口を開いた。
「間島。まさか、それ、古川と星野のアイディアじゃないよね?」
確認する口調。
間島さんは、一瞬押し黙って。それから、
「だとしたら、何か悪いかな」
と言った。
「悪いに決まってるじゃない。忍を悪役にしようって企みじゃない、それ。イジメだよ」
ひかりちゃんは強い口調で言う。
「そういう意図がないとは言えない」
間島さんは、かばいだてしようとはしなかった。肩をすくめて。冷静な目で、忍とひかりちゃんを見る。
「けど。私の見たところ、他にセリフが入っている人間はいない。役があるヤツは、自分の役で精一杯だし。役のないヤツは、セリフなんかいちいち覚えてないだろ。でも、雪ノ下は全部覚えてる。サロメもヨハネも、全部」
そうだろ? と彼女は忍に向けて言った。
忍は。思わず下を向いてしまう。
「そうなの? 忍」
ひかりちゃんが驚いたように忍を見る。
忍は、小さくうなずいた。もともと、記憶力はいい方だ。何度も稽古を見ている内に、自然に覚えてしまった。
「でも。だからって、忍が悪役なんて」
「誰かがサロメをやらないと、芝居が成立しない」
間島さんはキッパリと言う。
「宮井とは違うタイプだけど、私は雪ノ下もいいと思う。背が高いし、舞台映えする。雰囲気もあるしな」
商品を値踏みするような目で忍を見た。そういえば、間島さんは演劇部だったような気がする。
「あの。でも私……大きな声、出せない……」
小さな声で言う。大声を出すのは、苦手だ。
「ピンマイクを使うという手もあるよ」
間島さんは言った。
「ただ、その場合、雪ノ下の声だけ他の子より大きく会場に響くことになるから。逆に恥ずかしいのじゃないかな。この際、大きな声を出す練習をしてみたら? その方が自分のためになるんじゃないか」
「間島。その言い方、キツイ」
ひかりちゃんが顔をしかめる。
「遠山は雪ノ下を甘やかし過ぎ。年下じゃない、同学年なんだから、もう少し突き放してもいいんじゃない? その方が本人のためだと思う」
間島さんは冷たい。
「忍。やることないよ」
ひかりちゃんは言った。
「そんなのやったら、古川たちの思うツボじゃん。わざわざ悪役をやることないよ」
「けど」
忍は下を向いたまま、言った。
「やらないと、みんな困るよね?」
「すごく困る」
間島さんはキッパリと言った。
「間島」
「遠山が口を出すことじゃない。雪ノ下に話してる」




