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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
104/211

5 呼び出し -1-

 土曜日はこれといったこともなく過ぎた。そして、日曜日の午前中。

 寮でひかりちゃんとしゃべっていると、携帯が鳴った。ひかりちゃんのも同時だ。見ると、クラス委員の間島さんからのメールだった。

『百花祭のことで話があるんだけど、中庭まで来られない?』

 と書いてある。

 二人で顔を見合わせた。間島さんとは普通に話はするけれど、かといって特別仲が良いわけでもない。グループも別だ。

 

 けれど、文化祭の話だということなので。行く、と返事をした。

 二人で中庭に出ると間島さんが待っていて、こちらに向かって手を振った。


「悪いね。来てもらって」

「どうしたの、急に」

 ひかりちゃんが訊ねる。学院祭でやるはずだった劇では、ひかりちゃんは兵士役、忍は衣装係で、それほど大きな仕事は受け持っていない。


「うん。昨日さ、星野から連絡があって、いろいろ話したんだけど」

 間島さんは言った。星野さんは、百花祭の実行委員だ。

「劇ね。サロメじゃなくて、バプテスマのヨハネを主人公にして、迫害劇にしたらどうか、って。雪ノ下のお姉さんに言われたんだって」

「お姉ちゃんが?」

 忍は目を丸くする。


 確か、お姉ちゃんも百花祭実行委員だ。四年生の時も委員で、去年は委員長。(だから絶対来て、と家族に動員がかかったので覚えている)仕事が性に合っているらしく、三年連続で立候補しているらしい。

 それにしても。あのお芝居は、中止になるとばかり思っていたのだが。


 殺人があった当のそのクラスで、殺人を扱った劇をする。

 ずいぶんと、不穏な提案だ。確かにお姉ちゃんなら、そのくらいのことは言いそうだけど。


「時間もないし、私らそれでいいんじゃないか、って思うんだけど。二人はどう思う?」

 忍は。ひかりちゃんと顔を見合わせる。

「まあ。星野と古川がいいんだったら」

 ひかりちゃんが言って、忍もうなずいた。小林さんの事件で。一番傷付いているのは、仲良しだった星野さんと古川さんのはずだ。


「あの二人は、いいって言ってる」

 間島さんはホッとしたようにため息をついた。

「手分けして、全員に聞いて回ってるんだ。これで、多分全員の同意が取れたと思う」


 そうだったのか。忍は納得する。

 わざわざメールで呼び出すなんて、何かと思ったけど。そういうことなら、納得だ。


「でも、いいのかな」

 忍は、おそるおそる口にする。

「うちのお姉ちゃんが言い出したことに、私が言うのもヘンかもしれないけど。あんな内容じゃ、問題になるんじゃない?」


「やるからには、そうならないようにする」

 間島さんはキッパリと言った。

「恋愛劇をやめて、サロメを完全に悪役にする。ヨハネは何の落ち度もないのに、一方的に殺されたことを強調する。予定していたダンスは全部はしょるから、芝居は短くなるけど、その分、劇の後で古川と星野から事件についての気持ちを伝えてもらう。私たちが今、感じていることを訴えかける」


 サロメのお話を台本にまとめたのは間島さんだ。

 担任の嵯峨野先生も、良く出来ていると言っていた。


「間島、今から書き換えられるの?」

 ひかりちゃんが聞いた。

 間島さんは、眼鏡を軽く持ち上げる。

「決まったからには、急いで書くよ。題材が題材だし、急いで書き上げて、先生のチェックも受けなきゃ」

「大変だね」

 忍は心から言った。その顔を、間島さんがじっと見る。


「そこで相談なんだけど。実はね、この話をしたら、宮井がサロメをやるのはイヤだ、って言い出しちゃって」

「え?」

 忍たちは驚いた。宮井さんは、サロメをやるはずだったはずの子だ。モダンダンス部で、自分から立候補して役に付いたのに。


「それじゃ、困るじゃない。どうするの」

 ひかりちゃんが言う。間島さんは腕を組んだ。

「そうなんだ。宮井が言うには、恋愛モノの主演だと思ったからやりたかったんだって。そんな悪役、出来ないっていうんだ」

「でも。やってもらうしかないじゃない」

 ひかりちゃんはいっそう唇をとがらせる。


 それを無視して、間島さんは言った。

「だから相談したいんだ。これはお願いなんだけど。雪ノ下、代わりにサロメをやってくれないかな」



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