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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
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4 自分で決めろ -6-

 世界でいっぱいに満たされた自分を、体という『入れ物』から少しだけ、周囲に向かって伸ばしてみる。

 女の子たちの気配。

 楽しそうだったり、悲しそうだったり、淋しそうだったり、怒っていたり。

 いろいろな感情、いろいろな想いがたくさんたくさん。

 この花園にさざめいている。


 けれど、その中に。わだかまる暗い翳がある。

 それはもぞもぞと蠢いて。時折、長い触手を伸ばして。花園を飛び回る気配を引きずりこむ。


 ああ。

 それは、許しておいてはいけないモノだ。

 放っておいては危ないモノだ。


 忍の中を満たしているものは、はっきりとそれを感じ取る。

 今、鼻の曲がりそうな腐臭までが届く。

 大森穂乃花や小林夏希が発していたものとは段違いの、直面するのが辛く感じるほどの劇臭。


 あれが原因なのだ。

 小林さんも、穂乃花お姉さまも、あれに冒され、臭いをうつされてしまった。

 あれをはびこらせておけば、そういう人がどんどん増える。


 あの根を絶やさなければ。

 完全に。もう、動くことがなくなるように。

 忍は、自分の焦点をその黒いモノに向けていく。

 相手も、忍の存在に気付いたかのように、黒い体を大きく揺すり。


 自分と相手が触れ合った時、きっと全てが始まり、終わるのだ。

 そんな予感が、忍を満たす。


 それはきっと。

 自分か、相手か。どちらか片方しか残らない潰し合いになるのだろう。

 だから相手の急所を探して。忍はゆっくり、体を伸ばす……。



「忍。何やってんの?」

 不意に声をかけられて、忍は目を開けた。振り返るとひかりちゃんがいて、こちらを不思議そうに見ている。

「こんなとこで突っ立って、ボーっとして。風邪ひくよ? もう、朝晩寒いんだから」

「う、うん」

 忍はうなずく。


 集中が切れたのと同時に、あの黒いものとの接触も切れた。

 今はもう、感知することが出来ない。


 あれは、ここにあってはならないものだ。

 今でもそう思う、けれど。

 それでも、忍はためらってしまう。


 現実の忍に出来ることは、アレに冒された人の名前を十津見先生に言うことだけだ。

 それは、その人の学校からの追放を意味する。

 そうすることがその人のためになると言えるのか。

 忍にはまだ、答えが出ない。


『悪を容認するのか』

 と問いかけた。十津見先生のような強さが忍にはない。

 だから、アレにどうやって立ち向かえばいいのかも。ただの中学生に戻った、今の忍には分からなかった。



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