4 自分で決めろ -6-
世界でいっぱいに満たされた自分を、体という『入れ物』から少しだけ、周囲に向かって伸ばしてみる。
女の子たちの気配。
楽しそうだったり、悲しそうだったり、淋しそうだったり、怒っていたり。
いろいろな感情、いろいろな想いがたくさんたくさん。
この花園にさざめいている。
けれど、その中に。わだかまる暗い翳がある。
それはもぞもぞと蠢いて。時折、長い触手を伸ばして。花園を飛び回る気配を引きずりこむ。
ああ。
それは、許しておいてはいけないモノだ。
放っておいては危ないモノだ。
忍の中を満たしているものは、はっきりとそれを感じ取る。
今、鼻の曲がりそうな腐臭までが届く。
大森穂乃花や小林夏希が発していたものとは段違いの、直面するのが辛く感じるほどの劇臭。
あれが原因なのだ。
小林さんも、穂乃花お姉さまも、あれに冒され、臭いをうつされてしまった。
あれをはびこらせておけば、そういう人がどんどん増える。
あの根を絶やさなければ。
完全に。もう、動くことがなくなるように。
忍は、自分の焦点をその黒いモノに向けていく。
相手も、忍の存在に気付いたかのように、黒い体を大きく揺すり。
自分と相手が触れ合った時、きっと全てが始まり、終わるのだ。
そんな予感が、忍を満たす。
それはきっと。
自分か、相手か。どちらか片方しか残らない潰し合いになるのだろう。
だから相手の急所を探して。忍はゆっくり、体を伸ばす……。
「忍。何やってんの?」
不意に声をかけられて、忍は目を開けた。振り返るとひかりちゃんがいて、こちらを不思議そうに見ている。
「こんなとこで突っ立って、ボーっとして。風邪ひくよ? もう、朝晩寒いんだから」
「う、うん」
忍はうなずく。
集中が切れたのと同時に、あの黒いものとの接触も切れた。
今はもう、感知することが出来ない。
あれは、ここにあってはならないものだ。
今でもそう思う、けれど。
それでも、忍はためらってしまう。
現実の忍に出来ることは、アレに冒された人の名前を十津見先生に言うことだけだ。
それは、その人の学校からの追放を意味する。
そうすることがその人のためになると言えるのか。
忍にはまだ、答えが出ない。
『悪を容認するのか』
と問いかけた。十津見先生のような強さが忍にはない。
だから、アレにどうやって立ち向かえばいいのかも。ただの中学生に戻った、今の忍には分からなかった。




