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花園で笑う  作者: 宮澤花
第2部 忍
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4 自分で決めろ -4-

 蹴られた頭や体は、時間が経っても痛くてたまらなかった。

 それでも、腫れたり熱が出たりはしなかったから、一応折れたりはしていなかったようだ。

 お風呂の時に、ひかりちゃんがアザになっていると言って驚いた。忍は、転んだんだ、という話を繰り返したけれど。

 ひかりちゃんはきっと、疑っている。表情でそれが分かる。なのに。本当のことを、言えない。

 そんな自分が、ますますイヤになる。



 次の日もやっぱり、ホームルームは紛糾して出し物はちっとも決まらなかった。

「こんなにみんな協力的じゃないんじゃ、学院祭なんて出来ない」

 星野さんはすっかり不機嫌になってしまった。

 けれど、みんなも突然の出し物変更命令に納得いかないようで、教室の空気は落ち着かない。

 

 小林さんが死んだこと。それがようやく現実だとみんなに分かったかのように。

 一年竹組の教室には。嵐が来る前の空のような、重苦しい雰囲気が漂っていた。



 授業が全部終わった後、十津見先生の研究室に呼ばれた。

「昨日の話だが」

 先生は事務的に言った。

「大森穂乃花は休学することになるだろう。その後についてはまだ分からないが」


 そうか。

 忍は無感動に考える。あのお姉さまは、もう学校に来ない。

 それは。

「私のせいでしょうか」

 忍は。そう尋ねてみる。


「根拠のない話では、生徒を処分出来ない」

 先生はあっさりと言った。

「今回は、外部の善意の第三者からの通報によるものだ。放課後、彼女が我が校生徒にはふさわしくない場所に入っていくのを見た人がいてな」

 言葉を切る。

 それでは、忍を痛めつけた後。大森穂乃花は校外に出かけたのか。


「それで。雪ノ下忍」

 先生は眼鏡の奥から目を光らせて、問いかける。

「他に、君の注意を引く生徒は。名前が分かっていたら聞かせて欲しいのだが」

 ドキリとした。


 腐臭を漂わせている人間は他にもいる。何人もいる。

 だが、名前までは特定できていない。しようとも思っていなかった。

 多分、その気になれば出来る。そのはずだけれど。


 穂乃花が学校から消えた事実が、重い。

 自分の行動が他人の運命を変えてしまう。

 そんなことが現実に起こった。


「先生」

 忍はたまらずに問いかける。

「それは、正しいことなんでしょうか」


 先生は眉を上げた。

「それはどういう意味だ?」

「あの」

 忍は口ごもった。先生の目は厳しく彼女を見据えている。

 逃げ場を許さないまなざし。それで彼女は、何とか言葉を絞り出す。


「私が……誰かの名前を言ったら、それでその人が……。私なんかが、そんなことをして、その」

 うまく、まとまらない言葉を。

「それでは君は。悪を放置しろ、という意見なのか?」

 先生の言葉が、鋭く斬り裂いた。

 その声に、忍は返事が出来ない。


「今、この学校には生徒たちを蝕む悪がある。君はそれを見抜くことが出来ると言う。それでいてその力を行使することを拒むと言うなら、君は悪を容認するということだな」

 悪を容認する。あの腐臭を認める。そういうことなのか?


「それは君の在り様だ。私には止められないが、そうだとしたら軽蔑すべき生き方だな」

 ビクッとする。

 先生に嫌われてしまったら、忍は完全に居場所を失ってしまう。


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