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花園で笑う  作者: 宮澤花
第1部 千草
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1 運命の出会いとは、かくあるものか -1-

 土曜日、午後二時三十分。

 私は二つ目のザッハトルテを、カフェ・オ・レと一緒に味わっている。

 美味しいと評判とのことだったが、なるほど、なかなかいける。甘味が少なくて、上品で、大人の味という感じで。


「遅いわねえ」

 淑子叔母さんが時計を見て言った。

 約束の時間は二時だった。こちらは十五分前に店に入っているから、もう四十五分待たされていることになる。

 今日は、叔母さん夫婦が設定した、私の『お見合い』だ。というか『お見合いのはずだった』と言うべきか。


 私、雪ノ下千草は現在十八歳。世間でいうところの高校三年生である。一般的に言えば、婚活をするにはまだ早い年齢なのだが。この叔母夫婦は私が十六に近くなった頃からやたらに縁談を持って来るようになった。しかも、両親には内緒である。そのことが、もう十分にうさんくさい。


 まあ、有体に言って。ここにいる叔母の結婚相手、矢崎の叔父さんという人のやっている事業の現状が、あまり芳しくないらしいのである。そこで、姪と有力者の息子の結婚を仲立ちし、一発逆転を狙っているらしいのだ。

 しかし、どうやら。本日の段取りは、暗雲がたれこめている様子。


 だいたい、叔母の持って来る縁談には、いつもアヤシサが付きまとう。そもそもが邪まな目的での仲人希望なのだから、強引・無理やり・突っ走り上等、という暴走族なみのセッティングなのだ。

 過去にも。呼び出された男性が何目的なのか分かっていなかった事例が二回。待ち合わせだと認識すらしてもらえていなかった事例が三回。

 まあ、私としては。高級店で叔母夫婦におごってもらえるだけでいいから、別に困りはしないのだが。


 今日の相手は代議士の三男。見合い写真と釣り書きは、ここに来てから開いた。

 評価すべきポイントは、高身長の美男子であること。実家は不動産を多く所持しているので、遺産分配がかなり見込めること。学歴もなかなかで、莫迦ではなさそうであること。

 一方、マイナスポイントは。


 お相手の年齢が、三十二歳であること。

 干支というシステムがあるこの国では。生まれた年から十二年をもって「ひと回り」と呼ぶ、趣深い風習がある。ひと回りの年の違いは、確実に世代の違いをも意味する。

 で、私とこの見合い相手とは。ひと回りした上に更に二年も年の差があるわけであって。

 こういうのは似合いの縁組とは言わないのではないか、と思う。


 更に言えば。

 燦然と輝く釣り書きの諸項目の中で、ひとつだけパッとしないところがある。それは職業。かなり、重要なポイントである。

 『自由業』とのみ記されたそれが、例えば。せめて『イラストレーター』だの、『俳優』だのと書かれているなら、何かしら仕事として成り立っているのだろうと思えるが。

 それすらも書けないらしい状況というのは。いわゆる『自称自由業』という他の何かではないかとの、不安というか推測をかき立てる。


 つまり、これはどうやら。プラスとマイナスを秤にかけたところ、不良物件。会わないで済むのなら、それに越したことはない、というニオイがする。

 こういう縁談を、平然と姪に押しつけてくる叔母の存在というのも、なかなかに問題だと思うのだった。



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