世界の意志は人の愛に夢想する
大切な誰かを守るために、解りえない誰かを傷つけることは厭わなかった。
大切な自分が生きるために、自然を喰らうことに躊躇わないように。
飢えた少女が伸ばす手を掃った。
僕が助けられるは一人くらいが精一杯だから。
世界は平和で、争い事なんて極僅かで。
本当は誰にでも幸福を得られるほど優しいのに。
僕たちは義務的にそれを願いながら、義務的にそれを壊していく。
全てが幸福に満たされ、世界のエンドロールが流れてしまうのが怖いから。
けれど、全てを壊しつくした先のバッドエンドも避けるために。
僕たちは無駄な足掻きを続けて、意味のない均衡を保つことに躍起になる。
誰かが、誰かのために必死になる。そんなキレイゴトを言うために。
誰かが、誰かを苦しめることを許容するしかない。
そんな世界で。
僕も世界の意志通りに、君のために必死になった。
世界が誰かのためにと示すから。
君のためだけと決めたから。
誰かを必死に守るその人は、泣きながら僕に言った。
いつも僕を守っていたその人は、笑って見せようと必死だった。
「傷つかないで。私は君を守りたかっただけだから」
倒れ行く君を抱きしめて。
凍え行く君を抱きしめて。
誰のためでもなく僕は哭いた。
その慟哭すら、誰かのためにと示す世界の意志が。
孤独の僕を裁くように、大切な亡骸を消し去った。
何かを抱いていた両腕が空を切る。
何かを消された涙が地を濡らす。
世界の傲慢が雄弁に語る。
誰かのために生きろと。
美しく着飾った意志を押し付けてくる。
ああそうか。
ならこうしようと。
僕を抉る。
誰のために僕は生きるのか。
そんなことをまた決めるほど僕は生に拘らない。
だから、誰のためでもなく消えてやろうと。
何か大切な言葉を忘れたまま。
僕は美しすぎる世界に倒れる。
全ての感覚がなくなって。
世界の全てから解放されて。
僕は僕のエンドロールに微笑む。
誰のためでもない。
君は君のために生きていた。
僕だって僕のために生きていた。
世界の意志はいつから歪んでしまったのだろう。
あの日あの時。大切な者のために生を全うしろと語った世界は。
いつから、大切な者を誰かなどと曖昧にしたのだろう。
精々一人しか守り切れない人間如きが。
いつから、誰かも愛せると錯覚したのだろう。
僕が君を守る。
君は僕を守る。
そうできていた僕たちを、他の誰かが守ろうとした。
例えば、君以外の誰かが僕を。
或いは、僕以外の誰かが君を。
なんて醜い誰かだろう。
なんて悲しい誰かだろう。
本当に大切な人は。
本当に愛すべき人は、きっとそばにいたはずなのに。
それに気づいてさえいたら。
僕たちも。誰かたちも。
幸福に満たされたはずなのに。
世界はキレイゴトを並べ。
世界は美しさを愛し。
世界は人に夢想した。
即ち。
愛すべき人を愛して見せろと。




