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01 始まりの種2

 顧問が諦めと憂鬱を友にして、空しく去って行くのを陰から見送って、恭介は小さくだが深すぎる程深い溜息をついた。

 どうしてこんな人物が部長なのだろうか。この学校はどこか間違っている。

 恭介は強烈にそう思う。思わずにはいられなかった。

 「恭介さん」

 精神衛生上と自らの健康の為に、見なかった事にして(部活も部長のせい、もといお蔭で無くなったから)帰ろうとしていた恭介は、決して聴き慣れる事は無いだろう声を聴いた故に、固まった。

 「み、美里さん?」

 恐る恐る振り返ると、恭介を見上げるようにして我が校の副会長が立っていた。

 一四五センチの清楚可憐な少女の名は『深瀬美里』という。学校中で一握りの人以外は、全て彼女の『魔法』にかかってしまっていると言われていた。美里と(親しく)話がしたいが為に、生徒会に立候補してしまった恭介も『魔法』にかかってしまった者の一人である。

 癖の全く無い長いしなやかな黒髪や、大きく輝く美しい瞳が『魔法』をかけた…『恋』とも『憧れ』ともつかない、けれど特別な想いを湧きおこさせて。

 恭介は、一目見て『魔法』にかかった。

 俗に言う、一目ぼれである。

 超絶な倍率に打ち勝ち会長に就任できた現在、『生徒会長』としての責務に苦労しながらも言葉では言い表せられない程の、幸せな生活を送ってしまえていた。恭介は、只々幸せである。

 そんな、心を占めてやまない美里が、立っている。恭介は強い幸福感を感じた。

 「新歓の事で、ブラスバンドの方が泣き付いて来てるんです。今、拓馬さんがお相手してるんですケド、行って下さいますか」

 美里は、無感動、無表情に特別何でもない様に、冷たくも見えそうな感じで言ったが、恭介の魔法にかかった(残念な)頭と瞳には『お願い、助けて♡』と、すがられているように感じてしまう。すがりつきたいのは、現在相手をしている書記の『山佐拓馬』だろうが、恋する愚かな男は気付いていない。

 嫌、気付いていても意に解さなかったかもしれない…恋は、盲目である。

 「み、美里さんのためなら、もちろん」

 「……お願いします」

 美里の言葉に、恭介の心に明るい、明るすぎる程に明るく花が咲いた。恭介はこれから、厄介事を片付けなくてはいけない事等考えてはいない。只、お願いされてしまったからには大急ぎで、何をおいても生徒会室に向かい、事態を収拾するだけである。

 美里は、急いで去って行く恭介の姿が見えるうちに見送るのを止めて、生物準備室に何となく視線を移した。戸が半分程開いたままに放置されていたので、室内がすっかり見えている。

 中では、満月すすきが失敗した実験の後始末をしながら、いなばに話しかけていた。

 すすきは、結構几帳面らしく箒で隅から中央にゴミを集めていた。注意深く塵一つ残さないような徹底ぶりを見せている。

 が、それと同時にグチも多い。ぶつぶつと悪態をつきまくっていた。

 美里はしばし、その真面目とも見られる様子を眺めていたが、何を考えているのかその表情からは全く窺う事が出来なかった。もしかしたら、何も考えてはいないのかもしれない。

 暫しの間、美里は少しも動く事もなく彫像のように佇んでいた。が、突然瞬きを繰り返すと、薬品棚の辺りを凝視する。何か感じる所があったらしい。その視線が一点で止まった。

 「………」

 美里の瞳に赤い、小さな物が映る。それはルビーの欠片のように美しかった。綺麗な物ではあるが、美里の気を引いたのは、その美しさでは無かった。

 瞳が付いていたのである。

 嫌…瞳が付いているように見えるだけかも知れないのだが……。

 一人と一つは無言で、互いに見つめ合う。赤い欠片に付いている瞳の目付きは酷く、最低な程悪かった。

 そのうちに美里の頬が、ほんのりとした桜色に染まった。表情は相変わらず変わらないままだったが、美里は、その欠片を大事そうにハンカチに包み込みポケットにしまいこむ。

 その行動は慎重ではあったが、素早く音もなく、大胆だった。

 満足げな微笑みを浮かべた美里は、背中に満月すすきの漏らす、いなばへの泣き言を聞きながら、帰って行くのであった。














 

苗木菜々香が書きました。

次は、『渡空燕丸』のターンです。

宜しくね♡

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