「そっか……じゃねえし」
眠る。
眠る。
いつまでも、いつまでも、俺は眠る。
「………………」
話の続きが描かれないまま、俺らはいつまでも真っ暗な闇の中、目を開くことすらできずに眠る。
それだけ。
俺らは、それだけの存在。
もしも、あいつが書くことをやめて、削除という作業をしたなら。
「はあ」
寝ながら溜息をつく。
削除をしたら、俺らは消える。
削除という文字まんまに。
「……あ」
ブゥンという音。カリカリカリという馴染みがある音。
かすかに明るくなる周りの景色。
あとは、俺がいる場所を指定して、開くだけ。
そうすれば、なにもかもハッキリと見えはじめる。
「っかしいな」
周りだけがにぎやかなだけ。
「俺らのこと忘れてねえか」
俺は昨日と変わらず、部屋のドアを開けたまま突っ立っている。
いつまでこの格好なのか、こいつだけが知っている。
というか、こいつ次第。
「あー、腰痛え」
そう文句をたれても、誰が気づく。
「……っとっとっと」
グチをこぼした次の瞬間、足が一歩進む。
「お。やっと思い出したか、俺らのこと」
「(仮)次郎。うるさいよ、もう」
「いいじゃねえかよ、これっくらい騒いだってよ。お前だってその恰好のままで嫌だったんだろうが」
(仮)乙女は、着替えの途中だった。
ベッドの上で制服のリボンをほどこうとしかけた姿で、俯いていた。
「(仮)次郎! なんであんたがここにいるのよ」
急に顔を上げたと思えば、俺に向かって怒鳴りつける。
話が進みだしたってことだ。
「しゃあないだろ。お前んちのおばさんが、お前が部屋にいるからコレ持ってけって言ったんだからよ」
「着替えの最中だってことぐらい、見た瞬間で分かんなさいよ。早く出てって」
「(仮)乙女の着替えなんか、何百回も見てきてるっての。見飽きすぎて、みても女を感じねえな」
「な、なによっ」
「あぁ?」
よーし、いい感じだな。
「文句あるなら、おばさんに言えよ」
「うちのママがなんだっていうの? いいから早く出て行って」
制服をはだけさせた格好のまま、(仮)乙女に部屋から出される俺。
「ガキの頃から、風呂だって一緒だったろうが。……ばーか」
ドアの前でそう怒鳴りつけ、俺は階段を下りていく。
「おばさん。俺、今日は帰るから」
「あら、そう?」
玄関で靴のかかとを踏みつぶしたまま、乱暴な足音をさせて俺は出ていく。
「ったく。俺は何も悪くねえだろ」
曇り空をみあげ、俺は呟く。
すると、「そっか」という声が空からした。
嫌な予感がした。
空を見上げたまま、いつもの方向に向かって目を凝らす。
「なにやってんだ、あいつ」
短く呟いた「そっか」の一言。
その後、話が続くかと思いきや。
「ちょっと待て! なにしてんだ、お前」
慌てる。
いきなり、ブツンという音とともにいつもの真っ暗な世界になった。
しかも、今日は最悪だ。
「上書きしないで、キャンセルしたな。あいつ」
次に明るくなった時には、(仮)乙女の部屋のドアんとこから始まることになる。
「ちっとも進まねえっての」
ゆっくりと消えていく意識。
俺の願いは届かない。
俺は、進みたい。
この話がどんなもので、俺ら以外に誰が出て、どうなるのか。
ただ知りたいのに、登場人物の俺らの気持ちは勝手に動かせない。
俺の好き勝手に話が進められればいいのに。
ホント、そう思った夜だった。