006 洞窟の中で・2
「おぉリシュ!姿が見えないから心配していたんだぞ!」
白髪の老人が、杖で体を支えながら駆け寄ってくる。
ここはリシュの村の洞窟中。ウラク達は盗魔団のアジトから戻ってきた。もちろん、あの後キツーいお灸を存分に据えてきたが。
「村長!心配かけてごめんなさい」
「いきなり居なくなって、一体何をしていたんだ?……そちらの方々はどちらで?」
村長がウラクとカシスを疑うような目で一瞥する。村を襲われて、よそ者に強い警戒心があるのだ。
「2人は村の恩人よ!盗魔団を倒してくれたの」
「なんと!」
村長は目を丸くして驚いた。後ろで野次馬をしていた人々にもざわめきが広がる。
村長がウラク達の方に向き直る。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
手をすり合わせ、二回大きくお辞儀をする。
「なんとお礼を言ったものか……お名前を聞かしていただいけますか?」
カシスが一歩前にでる。
「私はカシス・ディファ。こちらの方は、ウラク・クラウンです」
「カシス・ディファ……聞いたことがあるぞ!確か…最年少でカラードに任命された天才魔術師……」
「なっ!?クラウン……王族の姓……まさかあの人が精霊王アルカディア・セイントロックの加護の下に産まれた王子なのか」
野次馬から驚きの渦が巻き起こった。中には膝をついて敬意を表す者、二回腕を振って敬礼する者もいる。リシュは状況がいまいち掴めていないのか、キョロキョロと辺りを見回している。
村長もウラク達の前に膝をつき、敬礼をとった。
「なんと、なんと光栄でございます、殿下。そしてあなたは……噂の天才魔術師、緑のカシス様ですね?」
気づけば周りの村人達も村長と同じ姿勢をとっている。リシュ以外は。
「心から感謝を申し上げます、殿下。王国に精霊の加護と永遠の魔力が宿らんことを……」
周りも後に続いて、最高級の敬意の言葉を発する。リシュ以外は。彼女はまだ理解していない。
「はは、やはりバレてしまうものですね」
カシスが苦笑いをウラクに向ける。
「偽名考えとかなきゃダメだな」
ウラクは困ったような表情だった。
王族として接されるのは、どうも好きになれないらしい。
「あ!……ちょっとウラク、あなた本当に王子様なの?」
ワンテンポ遅れて、リシュも理解したらしい。口を大きく開いて驚いている。
「ねぇ?ホントなの?」
「あぁ、黙って悪かったな」
するとリシュは目を輝かせて、
「すごい!本物の王子に会えるなんて……でも思ってたより格好良くないわね」
と思った事を素直に吐き出した。
「うるさいわ!お前の想像でも逆に困るっ」
ウラクはちょっと怒こったが、リシュはまじまじとウラクの顔を見つめているる。
「……ウラク、あなた……最初に会った時より喋るわね?」
すると、ウラクは急に視線を逸らしてしまった。横でカシスは小さく微笑んでいる。
「!……人見知りなんだよ、オレは……」
「こ、コラ、リシュ!殿下に失礼だぞ」
二人のやり取りを見ていた村長が慌ててリシュの口に手を当てて止める。
「ふごっ」
「大変失礼しました、殿下。……ではどうぞ奥の方へ。粗末な所ですが、歓迎します。祝杯を上げましょう!」
****
洞窟内の開けた空間。
松明がいつくもに灯り、ぼんやりとした光が広がっている。
「わはははは」
賑やかな笑い声。
村人達はテーブルを囲み、酒を酌み交わしている。
ウラクとカシスと、そして村長は酒の入ったカップを手に持ち、洞窟の大きな壁を見上げていた。
「……すごいですね」
カシスが感嘆の声をあげる。
三人が見上げている壁には、一面に描かれた壮大な壁画が。
「これは私達の先祖が見つけた物です。恐らくですが、古代の精霊について描かれているらしいのです」
カシスは壁に手を触れ、文字らしきものを見つめる。
「そのようです……大精霊クロガネ……地の精霊と共に……剣を握り……深く眠る」
「読めるのですか!?」
「えぇ、断片的にですが。どうやらここには、クロガネという名の大精霊が眠っているように」
「大精霊クロガネですか……聞いたことがありませんな。他にはなにか……」
二人が長くなりそうな話しを始めて、ウラクは一人取り残された。
何歩か下がって、目の前の壁画を見渡した。
「ホントにでかいなー……ん?あれは何だ?」
ふいに銀色の光が目に映る。
近寄ってみると、それは地に刺さる細身の剣であった。
「これが……剣」
初めて目にする剣に目を奪われた。
ウラクはおそるおそる手を伸ばす。
「ウラク様!いけません!」
カシスの声が洞窟内に響いた。それは何度も反響を繰り返した。
ウラクは手を止め、カシスの方に振り向く。
「危なかった……ウラク様、いいですか?剣と魔法は相反する物です。魔法を扱える者が、自ら剣に触れるとその魔力を失ってしまうのです。絶対に触れてはいけないのですよ?」
カシスはそうとう怒っているようだ、いつもの穏やかな眼を鋭くさせている。
「悪い……分かってたんだけど、体が勝手に」
自然に、自分の意思に反して、体が剣を求めた。
「この剣から離れましょう……嫌な予感がします」
二人は剣から離れ、賑やかな明かりの中心へと向かっていった。
「ウラク〜、どこ言ってたのよ。飲んでる〜?」
「うわっ!酒臭っ、リシュ酔ってるのか?」
――チッ
その時、暗闇の中から物音がした。だがそれに気づいた者はいない。
「酔ってないわよ〜」
「止めろよっ!」
「あははははは!」
ただ、洞窟には笑い声が満ちて足りていた。
……ふと気づくと、細身の剣は姿を消していた。




