006 山村で
旅立ちから三週間後。
ウラクたちは道に迷ったあげく、小さな山村にたどり着いた。
「本当にこんな所に人住んでるのか?」
山村とよんだ小さな家々は、ある家には大きな穴があき、ある家は半分崩れ落ちている。
人が住んでいるような気配はまるでない。
「おかしいですねぇ。村の入り口には、確かに『カルミア村』という看板が立っていたのに」
「もうとっくに移住してるじゃ……ん?」
ウラクが言葉を止め、目を凝らす。
すでに日は落ちて真っ暗な山の中に、確かに灯りが見えた。
「火、だな」
「えぇ、人がいるのかもしれない。行ってみましょう」
灯りの方に近づくと、大きな洞窟らしきものの前で焚き火が豪々と燃えていた。周りには人影はない。
「……誰もいないな」
ウラクが声を殺して言う。焚き火の奥の洞窟からはヒュウヒュウと風の通る音が聞こえてくる。
かなり奥まで続いているようだ。
「!ウラク様、伏せて下さい!」
――ビュウ!
洞窟の中から鋭く研がれた風の刃が飛んできた。ウラクたちが身を潜めていた木が、軽々と倒される。
「誰だ!?」
洞窟の中から人影が見えた。
焚き火の光を下から浴びているが、顔までは暗く影が張り付いていて見えない。
「ちっ……大地に眠る精霊よ、重なる響きをその力」
「ダメです!!ここは私に任せてください。ウラク様にやらせたら相手が死んでしまう」
「なっ!?そこまで力加減出来ないわけじゃないぞ!」
ウラクの言葉にカシスは軽く微笑み返すと、前に飛び出す。
――ビュウ!
風の刃がカシスを襲う。しかしカシスは、体を横に捻って避ける。
――ビュウ!
もう一度、風の刃が飛んでくる。
「緑の魔術師をあまり舐めないでもらいたい」
若草色の前髪が風に揺れただけで、風の刃はカシスの手前で掻き消えた。
「えっ!?」
洞窟の中から驚愕の声が上がった。声の主は女性、おそらくウラクとそう変わらない年頃だろう。
カシスはその方角に向けて声をかける。
「貴女がどなたか存じませんが……村の様子は見ました。何か事件があったのですか?私は貴女に危害を加える者ではありません。出てきて話しを聞かせてもらえませんか?」
少しの沈黙。
「貴方達は盗魔団じゃないの?」
「えぇ」
また何かを考えるように、沈黙。
そして、しばらくしてから洞窟の闇から、はっきりとした人物像が浮かび上がった。
やはり、まだ若い女だった。
「まだ貴方達を信用した訳じゃないわ。私の質問に答えて」
栗色の長い髪のその女は、同じ栗色の瞳を鋭くウラク達に向ける。
「名前は?」
「私はカシス・ディファ。こっちはウラクです。共に首都の出身です」
「首都の人間?なぜこんな所にいるの?」
「情けない事ですが……道に迷ってしまって、今晩泊まる所を捜していました」
「そう……いきなり攻撃してごめんなさい」
女は視線を和らげた。詫びるように小さく頭を下げた。
「いいえ。それより何かあったのですか?」
「えぇ、その話しは中でしましょう。何もないですが、歓迎しましょう」
そう言って女は、魔法か何かで明かりをつけ、洞窟の奥へと入っていった。




