004 旅立ち
やっと王子の名前が出てきました、これで序章は終了です。
「呼びましたか?兄様」
とてつもなく高い天井。それを支える、巨大な柱。所々に金や宝石の装飾が凝らされている。
ここはマジックリン王国で、一番の権力者が息づく場所。――そう、国王の間。
オレは兄である現国王、リカイ・クラウンに呼びだされている。
「あぁ、悪いな」
オレより数段の階段を登った、少し高い位置に置かれた豪華な椅子。
そこに兄様は腰を下ろして、座っている。
「いつも思うんだけど……その椅子、堅くない?」
兄様は軽く微笑む。
「あぁ、堅い。すぐ腰が痛くなるんだよ」
「へぇ〜。……で、何の用?また前みたいに、街で怪しい本買って来いって言うんじゃないよね?」
また兄様は笑う。
威厳のまるでない顔は、昼間の謁見中の時からは想像もつかない。
「はははっ。まぁ真面目な話だ、よく聞け。」
急に兄様の顔が真剣な顔つきになった。
オレはゴクリと唾を飲む。
「アジリアニから聞いたんだが……お前、最近剣の国の事ばかりらしいな」
「うっ……うん」
「何がお前をそうさせている?」
理由?
それはたった1つだ。
「見てみたいんだ、違う世界を」
兄様と視線が重なる。
見透かされるような深緑の瞳。
「そうか……じゃあ旅に出ろ」
「……へ?」
予想外の言葉。
オレは思わず、間の抜けた声を出してしまう。
「分からなかったか?お前の好きな所に行ってこい。お前の好きな世界を見てこい。って、言ってるんだ」
「いいの?」
「あぁ」
「やったー!兄様、ありがとう!」
オレは思わず飛び上がってしまった。
行けるんだ。夢にまでみた、地平線の向こうに。
「あ、ちなみに1人じゃないからな。護衛をつける。――入れ、カシス」
扉が開いて、緑のローブを着た男が入ってきた。
「カラードナイツ、【緑のカシス】参りました」
カシスは数歩前に歩みでると、オレと兄様に向かって膝をついて言った。
「畏まらなくていい。弟を頼んだぞ、カシス」
「はっ!国王様。この命に代えてでも」
カシスは立ち上がって、体の前で腕を2回振る。マジックリン王国式の敬礼である。
「よし。じゃあ2人とも下がっていいぞ。明日の朝一番に旅立て」
「かしこまりました、国王様」
「あぁ。本当にありがとう、兄様」
「アジリアニには内緒になー!」
兄様のその言葉を背にして、オレ達は国王の間を後にした。
…………ガチャ
しばらくして2人と入れ替わりに、黒いローブの男と紫のローブの男が国王の間に足を踏み入れる。
「カラードナイツ、【白のアジリアニ】参りました」
「同じ、【紫のゲルニカ】参上しました」
一方はアジリアニ。もう一方は、ゲルニカという背の高い若い男。
「本当に行かせて良かったのでしょうか?」
国王の顔が影がかかったように薄暗くなる。
「あぁ、【闇】の方の動向が掴めないからな。もしかしたら、ソーディアンと手を結ぶ可能もあるし」
「しかし王子を敵国に送るなど!護衛もカシス1人では……あやつはまだ未熟過ぎます!」
アジリアニが声を荒げる。ゲルニカは黙ったまま2人に交互に視線を送っている。
「大人数だと逆に怪しいだろ?それにカシスの力は、お前が一番認めてるはずだ、アジリアニ」
アジリアニは不安と不満が混じり合ったような表情で押し黙ってしまう。
「それに、ゲルニカも後ろから尾行するしな。まぁ、大丈夫だろ。なぁ?」
国王は笑っている。広い空間に声が反響する。
その瞳の奥には、――調和か野望か。はたまた虚無か。
「あいつならやってくれるさ……」
反響した音は互いに干渉し、渦巻き、飲まれ、そしていつの間にかかき消えていった。
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――出発の朝。
オレとカシスは巨大な門のしたにいた。
まだ太陽は半分しか姿を見せておらず、空気が新鮮味を帯びている。
「ふあぁ〜あ」
オレは大きな欠伸をした。結局、昨日はあまり眠れなかった。
隣でカシスも目をこすっている。
「いよいよ出発ですねぇ、王子」
緑のローブに小さな荷物袋を肩に背負い、カシスは長く続く道を見て言う。
まだ城下の家々が連なっている道ではあるが。
「……あのさー、カシス。もう旅の仲間なんだから、王子って呼ぶの止めてくれよ」
「!……はいっ!行きましょうか、ウラク様」
地平線の先までの栄光の旅の始まり。
彼らの、彼の前には、まだ見えない遥かに長い道が続いている。
「よし、行くか!」
――そして今、始めの一歩を踏み出した。
それと同時に、運命という歯車をも廻して。




