003 魔法の国と剣の国
今オレは、王城内の図書室にいる。
あの後、すぐにアジリアニに捕まってここまで無理矢理連れてこられた。
「さて、王子。なぜあんな所に登ったのです?挙げ句の果てには先代の国王が大事にしていた壷まで壊してしまって……怒られるのは、教育係りの私なのですぞ?ハァ……あなたのお兄様は私を困らせたことなどなかったのに」
「だ、だって魔法の修行ばっかで退屈だったし。
それに……地平線の向こうにある剣の国を見てみたかったんだ!」
アジリアニは困った、といった表情をしてため息をついた。
「またそんな事をいって……ハァ。あんな剣を信じている野蛮な国なんてくだらない。それに今こそ平和ですが、休戦中なだけで、またいつ戦争が始まるか分からないのですよ」
「そんなことは分かってる。だけど、見るぐらいいいじゃないか!いつか剣の国にも行ってみたいとも思ってる」
アジリアニが目を丸くして驚いた。
「剣の国に行く!?馬鹿な事を言ってはいけません、王子。それに向こうの国では、国民全員が剣を持っているのです。剣を持たない王子が行っても、すぐに捕らえられてしまいます」
「だったら剣を持っていけばいいじゃないか!」
またアジリアニが驚く。はらりと髪の毛が一本地に落ちた。
「剣を持つですと!?あんな野蛮な物など触れる事すらしてはいけません。この国では700年も前から禁止されておるのですぞ!全くふざけたことなど言っていないで、さっさと修行に入りますよ。これいじょう私の髪の毛を無くすわけにはいきません。髪は私の命ですからね、ハァ」
最後にこれでもかというぐらい大きい溜め息をついて、アジリアニは椅子に座った。
「さぁ王子。そこの椅子に掛けて下さい」
そう言ってテーブルを挟んで向かい側の椅子をさす。
テーブルの上には火や雨、森などの絵が描かれた本が開いている。
「魔法とは精霊との干渉によって生まれます。そのためには精霊にしっかりとした、魔法のイメージを伝えなければなりません。ですので、この火や雨の絵をみて魔法のイメージを作りあげる訓練をします」
アジリアニは焚き火の絵を指さす。
「いいですか?この炎の絵を見て、しっかり覚えて下さい。……覚えてましたか?では目をつぶって、 瞼の裏に今と同じ炎をイメージして下さい。……出来ましたか?そうしたら次にその炎の形を自在に操ってみてください……」
オレは目を閉じ、イメージした炎をぐにゃぐにゃ変化させていく。
まずは……こんにゃくだ!プルプルプルル!
――数分後。
「……なぁ、アジリアニ?」
「なんでしょう?」
「なんでいまさら、こんな簡単な事やらなきゃいけないんだ?」
「――?仕方な……じゃなくて、基礎が一番大事だからです!無駄口たたかないで、さっさとやりなさい!」
そう言われて、オレは再び炎をイメージする。
まぁ世の中、色々事情があるのだ。気にしない。さて……次は昆布だ!それ、ユーラユーラ。
――それまた数分後。
「……なぁ、アジリアニ?」
「なんですか?」
「15年前はさ、父上と一緒に【白のアジリアニ】って呼ばれて、戦場で活躍してたんだろ?」
「随分昔のことですがね。いまや前国王様も私も、大分力が衰えてしまって隠居生活ですよ」
「そーかぁ。で、さ……剣の国って強かったの?」
アジリアニが、チラリとオレの顔を覗いた。
この老人が、最強と言われていた時代があったなんて想像できない。
「また剣の国の話しですか……。まぁ、強かったですね。あの国の人間は生まれたときに、龍と【血の契約】を交わすことで、卓越した身体能力を手に入れますからね」
龍とは、古代から存在する巨大な生物。魔法とは違った力で自然を操る。
「それに龍の力を宿す剣を持っている【九本の王剣】という部隊は特に強力でした。我が国の【カラードナイツ】と並ぶくらいの力を持っておりました。背中の傷はその中の1人に負わされたものです」
アジリアニの背中には大きな傷がある。背中を2つにぱっくり割ったような傷が。
「あの戦争を経験したら、剣の国に行きたいなんて思わないでしょう……王子?」
「す、すごいな!剣の国には龍がいるのか。見てみて〜!行ったら見れるかな?」
ガタン!
アジリアニが席をたった。こめかみに青筋か浮いている。
「まだ、そんな事を言っているのですか!いい加減にしなさいっ!……ハァ、今日の修行はこれで終わりにします!」
アジリアニが肩を怒らせて、図書室から出ていった。
「ハァ……」
戸を通して、アジリアニの大きなため息が聞こえる。
「まぁた、怒らせちまったか……」
オレは立ち上がり、窓の方に向かった。外は夕日で茜色に染まっている。
だけど、水平線の向こうの景色は昼間と変わらない。
――あの向こうに。あの向こうの違う世界をこの眼で見てみたい…




