9 紅の血
もう、そこに居たのは兵士ではなかった、一国の王子、オレガノ本人。
「あれ?何で気がついちゃったのかな?おかしいなぁ、あのクローンは完璧なはずなんだけど?」
「血の匂いですよ、」
「血は盲点だったかな、まぁいいさ、君達の事を、殺すまでっ!」
オレガノは、長い口笛を吹いた。
ピィーーーーーーーーーーーーーーー。
すると、オレガノの後方から沢山の屈強な男達が現れた。
中には、手を4つあったり、足が無く這うように向かってくる者も居た。女性が一人混ざっている・・・ゼニアだ。
「・・・これも、クローンですか?」
アクロは顔を顰め、オレガノを睨み付けた。シェンはその光景を見て呆けている。
「あぁ、そうだよ?失敗作も混ざってるけど、皆強い子達だし、それに皆、従順なんだよ、洗礼されてるしね。」
オレガノは楽しそうに言って、失敗作の頭に手をやり、優しく撫でた。失敗作は指の無い手足をぶら下げ、汚らしく涎をまき散らしながら笑った様にアクロには見えた。
「正真正銘の嘘吐きですね、この詐欺師がっ!」
「黙れ、小娘がっ!殺れ!!」
オレガノは突然激昂し、クローン達に命を下した。
「そんな、下等生物共に私が倒されると思うのならば、貴方の頭の中には脳味噌が無いんじゃないんですか?」
アクロはオレガノに激しい呷りをかけた。
オレガノはそれを、クローン達の攻撃で答えた。
アクロはそんなもの気にせずに突き進む。
アクロの前をシェンが掃除するかのように、クローン達を切り刻んでいく。
青い鍵爪が赤に染まっていく、アクロの赤に。
「アクロ、オレガノだけを狙え!」
「分かってるよっ!」
アクロは脅威の跳躍で、オレガノの懐に降り立った。
アクロはオレガノの心臓に《血染ノ剣》を宛がった。
オレガノの顔から怒りのマスクが剥がれ、恐怖が張り付いた。
「どうしたんですか?さっきは元気に喚いてたのに」
「っ・・・」
「殺されたくなければ、答えなさい・・・どうして、ボク等を殺そうとしたんですか?」
アクロの表情には、いつもの無機質なものではなかった、無情な無表情。冷え切った仮面。
「君達が無茶を言うから・・・」
「何が無茶だ・・・貴方のクローンでも使えば、幾らでもできるじゃないかっ!」
アクロは剣の切っ先を食い込ませた、オレガノの皮膚から血が滲む。
「ひっ、あっあっ、アルマン様が・・・」
「アルマン?・・・アルマン・キュープ・リナリアか⁉」
「そっそうです!アルマン様がもし、紅蓮龍様を殺せば、千人の有能な兵とクローン技術の研究費用を出してくれると・・・」
「クソ親父が・・・いつか、あの腐れた脳味噌を野良犬にくれてやる・・・」
「ぐっ紅蓮龍様・・・?」
「貴方は、アルマンに雇われたわけ?」
「はっはい!だから私は何も悪くないはずなんですっ!」
「・・・ゼニアさんも混ざっていた様だけどなぜです?」
「本物の動物も人間もこの国にはおりません!」
「どういうこと?」
「私が元居た国で、私はクローンの技術を開発して居りました。そこで、クローンだけで国を造ったのです・・・」
「そうですか、で、ゼニアさんも貴方の自由だと・・・クローンとは言え、心のあるものを踏みにじっているんですね?」
「クローンに心などありませんっ!」
「そうですか・・・」
アクロの瞳には呆れと怒りが渦を巻いていた。
「あっ・・・あっ!」
「おやすみなさい、良き悪夢を・・・。」
「いやだぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ!!」
オレガノの悲鳴が高らかにあがった。
アクロは本日二度目の血飛沫を浴び、より深い赤に染まった。