8 紅蓮龍
「そうかいそうかい、そんな事はどうでもいいのだけれど、、待って居たんだよ、『紅蓮龍』、ふふっ、まさか子供だったとわね、全く分からなかったよ、それに、赤髪に赤目だって聞いてたしね、ふふふふふっ」
オレガノは恐ろしい笑みを浮かべ、アクロの額に赤くなるほど、銃口を強く、押し付けた。
「痛っ!」
アクロの強気な視線に若干の苛立ちを感じたのか、銃口を捻りながら強く押し付ける。
「ふふ、『紅蓮龍』なんてかっこいい名前だから、男の子だと思ってよ。それなりの、力はあるんだろうね?じゃないと、ぜんっぜん楽しくないじゃないか、あとその、反抗的な態度はただ相手を怒らせるだけだよ?」
アクロはオレガノの、恐ろしい笑みに喉を引き攣らせた、オレガノに気付かれぬ様にこっそりと《血染ノ剣》を取り出し、勢いをつけて、オレガノの喉笛を貫いた。
掌に、皮膚を突き破る感触と、肉を掻き分ける感触が残る。
だが、オレガノは喉を貫かれたにも拘らず、アクロの額に銃口を押し付けたまま、笑い続けている。
「それだけかい『紅蓮龍』?」
まるで化け物の様に―。
「くそがっ、シェンッ!」
アクロは眉間の皺を一層深くしながら、シェンの名を叫ぶように言った。
シェンはオレガノの頭上に居た。
シェンの両手には、『聖海ノ爪』が握りこまれている。
「戦争しようぜ?おっさん!!」
シェンは両腕を大きく広げ、オレガノの頭を爪で引き裂いた。
血が飛び散り、アクロの白髪とドレスを鮮血で染上げる。
アクロの足元に首から上の無い、オレガノの骸が落ちていた。アクロは見下すような目つきで、オレガノの骸を、踵の高いパンプスで踏みつけた。
「ふはははははははははははははははっ!!素晴らしい!素晴らしいぞ!なんて素晴らしい殺しだ!私のクローンの頭が木っ端微塵じゃないかっ!」
そう楽しそうに言ったのは、オレガノ。
殺したはずのオレガノ。
「・・・っ!なんで!?」「どう言うことだよっ!」アクロとシェンは、驚愕した。
足元の死体はオレガノのもののはず。
なのに。
「だから言っただろ?クローンだって!」
クローンとは、同一の起源を所有し、それに、均一な遺伝子情報を持つ、細胞、核酸、固体の集団のこと。つまり、まったく同じもの。偽者だけど、本物。
「ふふふっ、私はちゃんと本物だよ?嘘なんかつかないよ、嘘は嫌いだからね。」
「でも、貴方はボクを騙した、これは立派な嘘だ。」
「騙したんじゃない、勝手に騙されたんだ、私が本物ですってクローンが言ったのかい?言ってないはずだけどなぁ・・・ふふっ、赤髪、赤目、ってのは、髪を血で赤く染めた君の事だったんだね」
「黙れ、酸素の無駄だ」
アクロとシェンはオレガノを睨み付けた。
「アクロ・・・」
シェンがアクロに近づき、耳元で小さく囁くように言った。
「何さ」
「あいつの血の匂い、あの兵隊の匂いと似てる」
「兵隊?」
「あの紙で指切った、金髪の方」
シェンは言った、少し楽しそうに。
アクロは銃口を押し付けられ、赤く鬱血した額の丸い痕をさすった。
鮮血に濡れたドレスを、動きやすい様に、切り裂き、兵隊のところへ駈け出した。
シェンはアクロを追った。