2 紅い願い
ブロロロロロロロロロロロ―。
オープンカーのエンジン音が、激しく響いた。
アクロは白髪を隠すため、赤い大きなコートに付いている、フードをすっぽりと被っていた、白髪を見ると道行く人々が、奇異の視線を向けてくるので、気分が悪いのだとアクロは言う。
途中何人もの人間に、食事やお茶に誘われたが、アクロは全て断っていた。
アクロはガリガリとペロペロキャンディーをかみ砕いていた。
そこへ。
「あの、旅人さん」
と、長い赤毛を一つに結った、病弱そうな女性が、アクロに気弱そうな顔を向けて、そう言った。
「旅人さん、一緒にお食事しながら、お話しさせてくれませんか?」
女性は必死な形相でそう、アクロに問いかけた。
「・・・・・・・・・いいですよ・・・」
アクロは無愛想に了承した。
「いいのかよ、さっきまでのさんざん断っといて」
シェンはアクロに言った。
「いいんだよ・・・貴女はボクに頼みたいことがあるんでしょう?」
アクロは女性に言った。
女性は目を真ん丸くして驚いたが嬉しそうな顔をした。
「はい、そうなんです、あまり大きな声では言えないんですが…」
「だから、食事に誘ったって訳ですか」
「えぇ、そうなんです」
女性はコクコク頷いた。
* * *
アクロは赤いカーペットの敷かれた、ホテルの一室に、ジャスミンと、あの女性と居た。
ハイドとシェンは別室で食事を楽しんでいた。
アクロ達の居る部屋にはテーブルクロスの敷かれたテーブルの上には沢山の豪華な料理が並んでいた。
アクロはフードをすっぽりと被ったまま、分厚い肉を、上品に小さく切って食べていた、ジャスミンはワインを飲んでいる。
「好きなだけ食べてください」と女性に言われてから、今までずっと食べ続けている。
あれだけクッキーやらペロペロキャンディーを食べたのに、まだ食べている。
「アクロちゃん、それ位にしといたほうがいいですよぉ、太るよですよぉ?」
ジャスミンが嗜めると、アクロは露骨に残念そうな顔をしてから。
「デザートがまだだよ?」
と、言った。
アクロの前に座っている女性は楽しそうにフフッと笑うと、近くにあった電話で、デザートのルームサービスを取った。
「デザートを食べながら、お話しいたしましょ、その前に、貴方達の中に『紅蓮龍』と言う肩書きを持つものはいらっしゃいますか?」
「・・・『紅蓮龍』はボクですよ・・・ゼニアさん」
彼女はゼニアと名乗った。
ゼニアは運ばれてきたケーキやムースをアクロとジャスミンの前に運ばせ、自分は小さなタルトにフォークを刺した。
ゼニアは、アクロが『紅蓮龍』だと知ると、とても驚いた風だったが、淡々(たんたん)と続けた。
アクロは目の前のショートケーキの苺を突き刺し、口に運んだ。
甘酸っぱい、なんとも言えない味が口いっぱいに広がる。
「率直に言わせていただきますと、この国の王、つまり統率者である人物にあることをお願いして欲しいんです。」
ゼニアはタイミングを見計らい、話し始めた。
「実はこの前、私の夫が、重い病にかかってしまって。」
「そうですか・・・」
「はい、それで、夫の病気を治すには、娘の・・・娘の臓器を使わなければならないんです。」
「どうしてですか?」
「血縁者の臓器の方が、体に負担がかからないそうなんです。でも、他の人の臓器が、一致する可能性があるんです!なのに・・・、娘をとるか、夫を取るかの選択を、迫られているんです。ですから、王に他人の臓器でも、了承が得られれば、その臓器を使用してもいいという法律を、作っていただきたいと頼んで欲しいんです。」
ゼニアは目尻に涙を溜めながら、俯いた。
暗い沈黙は少し続き、そして。
「・・・なるほど、では、その依頼、承りましょう。代償は高いですよ」
「なんでも用意いたしますわ」
「・・・綺麗なナイフと、携帯できるような甘味、あと、ガソリンを用意してください。それと、依頼を終了させるまでのホテル代、食事代などの支払いも、お願いしたい。」
「それくらいでしたら、全然大丈夫ですわ、夫も娘も助かる可能性が増えるんですから、それくらい安いものですわ!よろしくお願いいたします。」
ゼニアは深々と頭を下げ、部屋から出て行った。ドアの向こう側。
ゼニアの顔には黒い笑顔があった。
「完璧な演技ができましたわ・・・お父様・・・」