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フツーの妊娠ってヤツ

ごめんなさい。以前、短編として出したのですが、これの続きを入れたかったため

こちらに移しました。

「できたみたい」

瑞穂の言葉に間抜け面で「何が」と返事して、慧太は思いきりテーブルの下で足を蹴られた。

「身に覚え、あるでしょうがっ!」

はいはい、子供ができたのか・・・えええっ!

そろそろいいよね、と言いあって3ヶ月。

そんなにあっさり妊娠するものか。


大体、人一倍小柄な瑞穂の妊婦姿は想像し難い。

「ちゃんと産めるのか、そんなにちっちゃいのに」

「小さくたって女としての機能はちゃんとあるのよ!知ってるでしょうが!」

あ、それは知ってる。失礼しました。

何も言葉の全部に感嘆符つけなくても。

「明日ちゃんと検査してくるけど、多分間違いない。覚悟しといてね、パパ」


翌日、慧太は会社に行ってもいつもに増して落ち着かず、何回も携帯をチェックして山口に顔を覗きこまれた。

「沢城に何かあったのか」

同じ会社にいたので、結婚した今も瑞穂のことを沢城と呼ぶのは山口だけではない。

「妊娠したみたいなんですよ。で、今日検査に行ってるんで」

顔に血がのぼってくる。

「津田が、パパ?大丈夫か、おまえ」

どういう意味で大丈夫かなのか。

「沢城はしっかりしてるけど」

そこから先は聞きたくない。


昼少し前に瑞穂からメールが入った。

――まる。

ひとことのみだが、意味は充分通じる。

慧太は電車の中で拳を握りしめ、小さくガッツポーズを作った。

パパだってよ、俺。


就業時間が過ぎて、焦った顔で見積の続きを作っている慧太に助け舟が出た。

「そんな顔して作ったって絶対見積オチがあるから、明日の朝にしろ」

待てを解かれた犬のように、慌てて帰り支度をする。

電車の中でまで走り出しそうである。

ターミナル駅に入っている花屋で、つい花なんかも買う。

あ、俺浮かれてるな。


家に帰ると、灯りはついていなかった。

まさか、仕事にいったんだろうか。

おそるおそるリビングに入り灯りをつけると、ソファにちょこんと瑞穂が座っている。

「どうした、暗くして」

言いかけたところで、言葉が止まった。目が赤い。


慧太は上着だけ脱いで、隣に腰掛けた。

「何か、あった?」

瑞穂は下を向いて、首を横に振った。

「診察台に乗ったらね、ちゃんと産めるのかなって」

そう言ったきりで続きはない。

ああ、そうか。フラバったか。

それに関して、俺にかけてやれる言葉はない。

慧太は黙って瑞穂の肩に腕を回した。


「大丈夫だ。単細胞生物は丈夫で生命力が強い」

慧太の言葉に、瑞穂は顔をあげた。

「お腹の中の子供まで、慧太と同じ細胞ひとつの人?」

そりゃ俺の子供だし、と言いかけると瑞穂がやっと笑った顔を見せた。

「扱いは楽かも。嘘つけない、隠し事はバレバレで、機嫌が直るのも早い」

あ、俺の評価ってまだそれなんだ。


「ごめん、ありがとパパ。頼りにしてるから」

パパか。

「どういたしましてママ。これから、更によろしく」

慧太が差し出した花を、似合わなーいと笑いながら受け取った瑞穂はそのまま中に顔を埋めた。


fin.

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