凱旋門に死す
凱旋門に死す
江刺家 駿介 著
スティーブ・アラン 探偵
ジム・モートン 記者
ルイ 泥棒
トム 少年遊撃隊
ベックス 警部
ロンドンのスティーブ・アラン探偵事務所にルーブル美術館から直接電話が入った。スティーブはジムにちょっとメモしてくれと頼み、依頼を聞き取った。なにしろ、泥棒がルーブル美術館からエリザベス女王の王冠を盗み出したと言う。それで、そのルイと呼ばれる泥棒がロンドンに潜伏していると言うので、ロンドン市警が身柄を取り押さえたという。
了解したスティーブはジムの取ってくれたメモをポケットにしまい外套を着込んだ。「ちょっと市警まで行ってくるよ。」と
30分後スティーブは急いでエントランスを通って警部のいる部屋へ入った。「やあ、スティーブ。久しぶりだね。」とベックス警部。
「最近はこんな仕事は珍しいよ。大泥棒だね。」
「早速、そいつに会わせたいところだったんだけど、そいつはもう釈放されたよ。なにしろ、あいつにはアリバイがあってね。これを見てくれ。」とデスクトップパソコンの再生ボタンをクリックするベックス。
動画には凱旋門の様子が。
あいつは事件当時刻、凱旋門を通っていたと言うから、当局に頼んで監視カメラの映像を送ってもらった。確かに、この男のさっきの服装がバッチリ映っていた。「見てくれ、この服を着た男。こいつだよ。」とベックス。
「なるほど、もう一度見せてくれるかい?」とスティーブ。
「なんでまた?」「ちょっと気になることがあってね。」
「分かったよ。ありがとう。」「それで何か分かったのかい?」とベックスは不可解な顔をする。
「ちょっとね。試してみたいことがあるんだ。」そう言って、スティーブは警部と別れた。
スティーブはすぐ事務所へ戻りパソコンを開いた。
メールを開き、宛先を少年遊撃隊隊長トムとした。
「トム、今度の容疑者を見つけてその住所を報告したものには100ポンド支給するから、皆に伝えてくれ。いいね。容疑者はもしかすると、左手に赤いルビーの指輪をしている可能性がある。そいつにはバレないように私に連絡してくれ。身長は170センチ、痩せ型。服装はそんなに派手ではないはず。」
送信したスティーブ。
「さて、ジム、手は一つ打ったんだけど、もう一つしたいことがある。質屋巡りだ。」「王冠だろ?そんなもの質屋に入れれば、たちまち、通報されるだろ?」「いや、違うんだ。ルビーの指輪をした男を探しに行く。」
「なるほど、容疑者はルビーの指輪をつけていたんだね。」
「警部は気にしていなかったけどオレには見えたよ。」
「昼を食べたら行くよ。」既にテーブルに出ていたサンドウィッチと紅茶を頂いて、スティーブは出発した。
ロンドン中にはいくつもの質屋があるだろうが、ルビーに強い質屋で検索をかけいくつか、ヒットしたのでそこを地下鉄であたるのだ。
ラムベスから地下鉄に乗り込み、トットナム・コート・ロードで降りてすぐのところにダイヤばかりでない、多種のジュエリーが並ぶ質屋があった。入って、店主に大きなルビーのはまった指輪を買っていった男を知らないかと訊く。
すると、店主「ああ、2週間前かな?確かにうちのルビーの一番大きいのを買ってたやつがいるよ。」
「で、どんな体型だった?」
「いや、風災の上がらない男だったよ。170センチぐらい、痩せ型、髭はきれいに剃ってたな。」「レシートあるかい?」「いや、もうレジの奥に眠ってて引き出せないよ。そいつは、だって、現金で買ったから。確かあれは1000ポンドほどだった。クレジットカードじゃないから、名前は分からないよ。」「そうか。」と了解して、店に礼を言った。監視カメラの映像も2週間前は引き出せないという。
スティーブは残り2軒も回ったが、釈放された男は来なかったと言う。
帰って、ジムと話すスティーブ。「どうも、不思議なんだ。アリバイが凱旋門にあるというのは、突飛じゃないかい?ジム。」「確かに、アリバイを示すなら、凱旋門でなくても、他のところにいたことを言えばいいような気もするね。」とジム。
「まるで、フランス公認でアリバイを作って、煙に巻こうとしてるような気がするんだ。それで私は少し頭を捻ったんだけどね。犯人は別の男に変装させて、凱旋門を通るところを撮影したんじゃないかって。ルイという男、がこの前捕まって、アリバイを証明し釈放されたけど、やっぱり、こいつが犯人で他の誰か同じ体型をした男に頼んだんだ。監視カメラに映った映像と同じコーディネートをした、同じ体型の男がそう多くいるとは思えない。しかし、熟練の泥棒なら、長い経験の間でダミーの仲間を作り出していた可能性はあるかもしれない。」
「トムから報告があればいいけどな。」
その時デスクトップからピコンっと言う通知音が鳴った。
トムから来ている。
「スティーブさん、隊長の私が見つけましたよ。メイフェアで待ってます。」
スティーブは急いで外套を目立たないものに着替え出発した。ポケットには拳銃を入れて。
「いよいよか...」とジムは固唾をのんで呟く。
マーブルアーチで降りたスティーブはトムをすぐに見つけ呼び止めた。
「トム、何処だい?」
「こっちです。」といそいそ、歩いて通りを2,3度曲がってついた先に見えるアパートを指さした。「ありがとう。本当にルビーをしていたね?」「ええ、確かにしていました。」「それじゃあ、これを君に。」と100ポンド差し出した。急いで、仕舞って、トムは小走りで行った。
あとはあいつがまた入っていくのを見たら突入だ。一か八か、王冠がまだ残っていればいいが、そして、あの服装もあれば。
3分ほど待ったスティーブ。ハンバーガーの袋を持って帰ってきた男が!
あ、ルビーをしてる!
服は着替えていた。
すかさず、階段を忍び足で登るスティーブ。
ドアが半開きで、まだ男の通ったすぐ後だ。
しかし、銃やナイフを持っていたらまずいな。
こちらも銃をポケットから半分出し、半開きのドアを通り抜けるスティーブ。足音を立てずに忍び込んだ。
銃をさっと、向けたがその部屋には男はいない。
さては、隣部屋か!?と空いている引き出しからさっき、監視カメラで見た服装そのものが覗いてるのを発見。
そうっと引き出すと、明らかにあの服だ。
間違いない...!
隣の部屋へ近づき、角から覗くと男がフライドポテトとハンバーガーを両手に持ってる。
しめた!
「王冠を出せ!」とスティーブは怒鳴った。
ルイはポテトとハンバーガーを下に落とし、手を上げた。
「王冠を出せ!」と繰り返すスティーブ。
「分かった!ちょっと待ってくれ!」
と後ろのクローゼットに向かい背を向けるルイ。
「ナイフや銃を出さないで、王冠を出すんだぞ!」とスティーブ。
ルイは武器を持っていないようだ。
後ろを振り向きながら撃たないでくれよと怖がるルイ。その手には、正しく、エリザベス女王の王冠が握られていた。
王冠を受け取り、そのまま、椅子に座らせて後ろ手に縄を縛ったスティーブ。すぐにベックスに電話をし、急行してもらった。
ベックスは「良かった!」と一声、胸を撫で下ろし、二人とパトカーに乗り込んだ。
しかし、もう一人の共犯者に変装して、アリバイを作ってもらったはず。もう一人は何処かと尋ねると...「知らないんだ!本当さ。あいつはパリで知り合って大道芸人みたいなことをやっていたやつさ。もう今は、何処に行ったことやら、さっぱりさ。」と言う。
舌打ちしたベックスは気にせず、所に急いだ。「とにかく、王冠さえ返還できれば大手柄だ。」と
翌日、探偵事務所に来ていたベックスはスティーブに問うた。
「でも、よく見つけたね。」「今回はトム少年の大手柄だよ。彼には100ポンド上げた。今頃、アイスクリームかチョコレートでも、たらふく、食ってるだろうね。」
「ダイヤモンドの指輪だったら、街中いくらでもいるけど、あの大きなルビーは目印になると思ったんだ。財宝好きっぽいでしょ?」
「気をつけてよ。突撃するときは。」とベックス。
翌日の新聞では、ルーブル美術館には王冠が飾られ、満面の笑みを浮かべるエリザベス女王の顔が横に付け加えられてあった。
日々、強化されるセキュリティ網ではあるが、ちょっと頭を使えば一時は容疑者となった男が釈放されロンドンのど真ん中を歩き回ることができる。いつの時代も分からない世界である。
fin




