表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スクライディ  作者: 柊里
1/11

何年前だったとか、細かいことは覚えていない。

それはもう随分前のこと。

私は、地上を彷徨っていた。

居たくも無い土地。見たくも無い世界。

まざまざと見せつけられた現実に、打ちひしがれていた。

「知らなかった……のに」

逃げていた。

自分の罪から。

自分の過去から。


それは、私が死んで間もない頃の話。


如月水那(きさらぎみずな

名を呼ばれて振り返ると、まだあどけない顔の少年が扉から現れた。

外見は4・5歳だが、それにしては年の功を感じさせる空気を纏ったその子供は、人間を平気で殺せそうな冷たい瞳をしていた。

背に純白の羽を持ち微笑む姿は、天使そのものだというのに。

「制服は選んだかな?選んだなら、名前を決めよう」

名は体を表すなんていうから、大切だよ。と感情のこもらない声で言われた。

「問題がある」

「なんだい?」

答えなどとっくに分かっていて、それでもあえて問うのだろう。

嫌悪なんて感情はまだ持ち合わせていなかったけれど、その瞬間だけはそれを痛感していた。

「殆どサイズが合わない。だけど…これは、嫌」

唯一サイズが合ったその服は、その時の私には視界にも入れたくない物だった。

嫌がらせとしか思えない、紅い服。

生前私が暗殺用に身に着けていた紅葉の着物や、刃を突き立てた後にに飛び散る血を、嫌でも思い起こさせた。

「いいじゃないか。自分の罪を思い起こさせてくれる服なんて、そうないだろう?」

自分の罪。

私のそれは、罪とは知らずにただ一族の命令のまま人を殺めたこと。

それ故に一族は全員殺された。

まだ5歳だった妹も、臨終間近だった長老も、もちろん私も。

そして地獄へ堕ちた。…否、堕ちる筈だった。

私だけが地上に残された。

『罪を犯した体を、天は受け入れられない。しかし、ヤミに染まらないその心は、地獄には相応しくない。だから、此処に残された』

創造主――この子供に初めて会った時に聞かされた答え。

『しかし、君が人を殺したという事実に変わりは無い。だから、僕は君の元に来た』

「『君がこの仕事を引き受けるのなら、もう一度人間として生きられる』かな」

「流石…全部お見通しか」

「当たり前だよ。僕は、君が考えていることまで事細かに覚えている」

創造主は、世界で起こったこと、そしてこれから起こることを全て知っている。

人間の心の内も、なんてことない虫の最期も、動物が餌を捕る時間も、何もかも。

「そしてそれをシナリオに表す。その上で、世界がその通りに動くようにする。君たちスクライディは、その手助けを担当するだけさ」

単純だろう?と言って口の端をあげて微笑む姿は、悪魔を思い出させた。

しかし、気付いた。

暗殺者であった時、私もこんな表情をしていたのだ、と。

人間のソレではない笑みを浮かべ、人を殺めていたのだ、と。

人間の感情を知ったばかりの私には、そこまで考えるのが限界だったけれど。


そして今、私はスクライディの一員として働いている。

あの紅い制服を身に纏い、如月水那の名を捨て(かすみとして。

それでも、私の罪が消える事は無い。

むしろ増えているのではないかと、時々思う。

この仕事が私たちの罪を増やしているのではないか、と。

スクライディの仕事は幅が広い。

動物の狩りを手伝ったり、成仏出来ない霊を成仏させたりという平和なものから、政治家の抹殺や、宗教団体の殲滅といった非道徳的なものまである。

能力や性格などによって、振り分けられる仕事の種類は人それぞれであり、“演技派”と呼ばれる私が最も多く受け持っているのは、咎人の処理。

人間の魂だけを殺し、その人間に成りすましてシナリオをまっとうし、そして今度は体ごと死ぬ。

そんなサイクルを延々と続けている。

この行為を正しいと思えるわけが無い。

「生前も、似た事を思ったな」

そして出した答えは、命令に従うという単純なもの。

一族の命令のまま、紅葉の着物を着て罪を犯した人間の自分。

創造主の命令のまま、紅い服を着て罪を犯す人間ではない自分。

迷うことは許されない。逆らうことは許されない。

人間として生きていたいのなら、ただ従えば良い。

そうやって、一族から解放されてもまた同じ運命を辿っている。

違うのは、私はそれが罪だということを知り、知りながら犯していること。

次死んだらなんてありえないが、もしそうなったら確実に地獄行きだろう。


私がこんな違反ともとれる感情を抱いていることを、創造主は知っているだろう。

それでも仕事を続けている限りは、何も言ってはこない。

仕事を辞めることのできない私は、やはりただの駒でしかない。

これは、悔しい、だ。

自分の罪を胸に刻み、傍観者となることで知った人間の感情。

皮肉なことに私は、人ならざるモノになって、それを手に入れた。


初投稿、初連載です。

設定も文章も未熟ですが…よろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ