表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強夫婦の隠居生活:桃から生まれた少年は、愛という名の力を継ぐ  作者: かきのたね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

最終話:帰郷、そして平穏の継承

 鬼ヶ島の戦いから数ヶ月。

 村外れの小さな庵では、いつものように剛造が不器用に柴を割り、お静が川のせせらぎに耳を傾けながら洗濯をしていました。

 しかし、二人の心は以前とは違っていました。かつては「いつか過去に追いつかれるのではないか」という微かな怯えがありましたが、今はただ、遠い空の向こうにあるはずの「愛」の無事を信じる、穏やかな静寂に包まれていたのです。


 そこへ、山道の向こうから懐かしい足音が響いてきました。

 一つは、お静が教えた「羽毛のように軽い」足音。

 一つは、剛造が教えた「大地に根を張るような」確かな足音。

 そして、それらに続く三匹の獣と、一人の老いた男の歩み。


「ただいま戻りました。お爺さん、お婆さん」


 顔を上げた剛造とお静の目に映ったのは、旅立つ前よりも逞しく、それでいて深い慈悲を湛えた瞳を持つ桃太郎の姿でした。


 桃太郎の後ろから、一人の老人が震える足取りで前に出ました。かつて「赤鬼」として世界を震撼させた羅刹です。彼は剛造の姿を見るなり、その場に崩れるように膝をつきました。


「……剛造。俺は、お前に勝ちたくて鬼になった。だが、この少年に……お前の『心』に、完敗したよ」


 剛造はゆっくりと歩み寄り、かつての宿敵の肩に、節くれ立った大きな手を置きました。

「羅刹よ。俺も、この子に救われた身だ。……もう、拳を握る必要はない。これからは一緒に、お静の美味い団子でも食おうじゃないか」


 お静もまた、桃太郎の肩に止まった陽炎、足元に寄り添う吹雪、そして荷物を背負った巌を見渡し、優しく微笑みました。

「みんな、おかえりなさい。……桃ちゃんを守ってくれて、本当にありがとう」

 その言葉に、三匹の獣たちは、自分たちがかつて恐れていた「伝説の二人」が、今はただの温かな「家族」であることを理解し、誇らしげに喉を鳴らしました。


 その夜、庵の囲炉裏には、これまでになく大きな火が灯っていました。

 桃太郎は旅の道中で出会った苦しみや、鬼たちが抱えていた孤独、そしてそれをどうやって「お作法((技術と心)」で解き放ったかを、夜が更けるまで語り聞かせました。


「お爺さん、お婆さん。僕は旅をしてわかったよ。力は、誰かを倒すためのものじゃない。誰かとこうして火を囲むために、邪魔な壁を取り払うためのものなんだね」


 剛造は、桃太郎が持ち帰った「不殺の杖」を手に取り、愛おしそうに撫でました。

「ああ。……俺たちは、戦場の中でしか生きられなかった。けれど、お前はその力を、日常を彩るために使ってくれた。……桃太郎、お前は、俺たちの人生の『正解』だ」


 お静も、桃太郎が丸めた不器用な団子を口にし、そっと涙を拭いました。

「この味……。私の教えたこと、ちゃんと届いていましたわ。……これからは、私たちがあなたを導くのではなく、あなたが、私たちの平穏を導いてくれるのですね」


 それからの村には、奇妙で、けれど世界で一番平和な光景が定着しました。


 村の橋が壊れれば、巨体の猿がひょいと岩を持ち上げ、白銀の犬が瞬く間に資材を運び、金色の鳥が空から指揮を執る。そしてその中心で、一人の少年が誰よりも静かに、完璧な手際で仕事を片付けていく。

 少し離れた切り株では、二人の老人が、かつての宿敵であった男と共に、穏やかに茶をすすりながらその様子を見守っている。


 かつて世界を震撼させた「最強の力」は、もうどこにもありません。

 そこにあるのは、自分たちの力を誇示する必要のない、満たされた魂たちが守る、ささやかな日常だけでした。


 桃から生まれた少年が、二人の強者に授けられた「愛」という名の技術。

 それは、時代が変わっても、形を変えながら、誰かの平穏を守るための光として、永遠に受け継がれていくのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ