僕は明日も今日を生きている
「実は、おじさんは中学生なんだよ」
なんて、知らないおじさんがいきなり話しかけてきたら、怖いよね。
しかもその内容は、自分は中学生だということで、それがさらに怖く感じる。
話しかけた、女子学生は走って逃げていった。
なにこのおっさん?っと顔に書いてありそうな表情だった。
もしかすると明日には不審者情報として学校で注意喚起されるのかもしれないが、俺はそのことを知らない。
このおっさんは誰なのか?
それは俺も信じたくはないが……俺だ。
なんで俺がおじさんで、そして中学生なのか。
理由は俺にもわからない。ただこれは事実だ。
言っておくが、冗談で言っている訳ではないし、記憶喪失や昏睡から目覚めてとかそういう話ではない。
ある日突然おじさんの姿になったわけでもない。
俺は1日1日をきちんと歩んでおじさんになったのだ。
俺のことを理解してもらうのは難しいかもしれない。
だから最初から説明しようと思う。
俺がまだなにも知らなかった日。
そこから物語は始まる。
1日目
それは俺にとっては20年前、ちょうど今日と同じ6月30日のことだ。
晴れていて気温は高く、お昼には30度を越えるような暑さだ。
その日、俺は朝8時に起きる。そして慌てて制服を着る。
もちろんだけど、この頃の俺も中学生で、この頃は見た目も中学生だった。
そして部屋から出て、階段を走るように降りる。
「おはよう」
「おはよお」
母親からのおはように、朝はしんどいんだよといった感じのテンションで返す。
リビングにあるテレビでは、芸能人の結婚が放送されていて、母はそれをじっと見ていた。
俺はテーブルにあるパン、スクランブルエッグを、イスに座らず立ったままで、急いで食べた。
そして母親が入れてくれる牛乳を口に流し食べ終わると、玄関に行き靴を履いた。
この慌ただしい食事は毎日のことなので、母親は何も言わない。
母からのいってらっしゃいの声を背に、玄関を出て学校に向かって走る。
途中、女子学生とぶつかった。
このことはよく覚えている。可愛かったし良い匂いがした。
その子は、すごく恐い顔でこちらを見て、なにも言わず走っていった。
そのあと何度かチャレンジをしたけど、ぶつかれたのは最初の1日だけだった。
思ったよりタイミングが難しい。
学校に到着し、友人の高野に声をかける。
高野は、あいさつのあと、ぜひ話したいことがあるんだ、聞いてくれよっと言う感じで近付いてきた。
「俺、今日告白する」
おぉまじか!っと俺は思ったよ。
相手は隣のクラスの山中さん。お互い運動部ということで、ちょくちょく見かけるたびに好きになっていったらしい。
もちろん俺は応援した。
先生が少し遅刻して、ホームルームが始まった。
「おはよう!!遅れてすまない!!」
走ってきた来たからだろうか、先生の顔は疲れているように見えた。
授業の順番は、国語、数学、理解、社会。
そしてお昼休みのあとに体育と保険だった。
授業は、特に変わったところはなく普段通りだった。
放課後、美術部の俺は美術室に向かう。
室内には、もうすでに数人の生徒がいて、飾りつけをしていた。
なぜ飾りつけをしているのかというと、今日は美術顧問の誕生日だからだ。
俺も飾りつけに参加する。
おじいちゃんの先生だったけど、泣いて喜んでたな。
今となっては、懐かしい1日だった。
そしてその1日は、これから俺にとっては悪夢になる。