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烏兎匆匆 【マークス】

「ちょ…マークス、お前デカくなり過ぎじゃないか?」


 頭二つ分ほど下から、金桃色の髪を持つ顔立ちの整った男の子が言う。


「そんな事ねぇよ。お前がチビなだけだ、ライリー」


「なっ…!酷い!」


「まぁ俺もお前くらいの時はフレリアと背は変わらなかったから、その内伸びるよ。心配すんな」


「えー本当?でもそれにしたって伸びすぎだよ。あの頃の"天使ちゃん"の面影全然ないじゃないか」


「その呼び方やめろ」


 フレリアが医師団の見習い試験に合格してから四年。あの病弱な男の子…俺は驚くほど背が伸びて、骨格が変わったんじゃないかというくらい、ガタイが良くなった。

 母さんも女性の割には体格が良かったし、行方知れずの父親も結構な大男だったらしいから、きっとそれを継いだんだろう。


「こんなデカい男を天使なんて言うの、姉さんくらいだよ」


「確かにな」


 笑いながら返事をする。


「あ、噂をすれば…」


 ライリーが手を振ると、健康的な色気を増したフレリアが笑顔で手を振りながらこちらに走ってくる。


「マークス!ライリー!」


 たくさんの書物を抱えて、金桃色の美しい髪を揺らすフレリアは本当に大人っぽくなった。なのに中身は木登りをしていた時のお転婆娘のままだ。


「…ご、ごめんなさい、講義が長引いちゃって」


 そう言うフレリアに俺はすぐ違和感を抱く。息の上がるフレリアの頭の先からつま先まで一通り観察すると、髪の毛に乱れを見つける。よく見ると頬の辺りも擦ったのか少し赤い。


「フレリア…今度は誰にやられたんだ?」


 ため息をつきながら訊ねると、彼女は一瞬びっくりした様子を見せていたが、すぐに観念した。


「…あの……ちょっと名前は分からないんだけど、騎士団の人に…その…」


 フレリアが目を伏せて困った様子で説明を始める。その様さえ可愛いと思ってしまうから俺も大概だ。


「またか」


「ち…違うの!胸が痛いって言うから…。部屋で診て欲しいって言われて…」


「またか」


 まただ。フレリアは自分の美しさと素直さをさっぱり把握していない。医師団の見習いとして頑張る気立ての良い娘。男所帯の騎士団になんか入隊したら、それはもう良い餌食だ。


 タギー男爵の件があったというのにフレリアは男を疑ったりしないものだから、部屋で少し休みたいと言われればホイホイついて行ってしまうし、体の調子が悪いから撫でてくれ言われれば"どんな部位でも"見たり触ったりしてしまうらしい。


 それが尾鰭のついた噂になって、いつの間にか"お願いすれば()()()してくれる見習いフレリア"という大変不名誉な愛称が付いている事を彼女は知らない。


「で?その()()()()って男はどうなったんだ?」


 呆れと怒りを半々にしてフレリアに訊く。内容に依っては相手の男を把握しておかなければならない。


「…あの、それが……君と寝ると鼓動が落ち着くって言われたから…」


 説明する声がどんどん小さくなる。


「まさかとは思うけど、一緒にベッドに入ったりはしてないな?」


 半分諦めながら訊ねると、消え入るような声で「少しだけ…」とフレリアが困り顔になる。


「…で?一緒に寝たら()()()手を出された、と?」


「ち、違うわ!!ちゃんと逃げて来たもの!」


 そこだけは頑張った!とでも言いたげにフレリアが頬を膨らませる。やめろ、そんな仕草をしたら別の男が寄って来る。


「フレリア、もう言い過ぎて逆に効果はないかもしれないが…」


「わ….わかってるわ!下心のある人間には気をつけろ!でしょ?」


「そうだ。ちゃんと自衛しろ」


「もちろんよ!…でも助けを求められた時は助けてもいいのよね?」


「…………そいつに下心が無けりゃな」


 フレリアの純粋さにつけ込む輩が多すぎて、俺は仕事終わりに毎日アリアストリ家に寄って彼女の安否確認をしている。

 特に最近はとんでもない頻度で襲われそうになって帰ってくるので、いっそ自分も騎士団の入隊試験を受けて彼女の側に行こうかと悩む日々。


「でもなぁ…」


 結局いつかは区切りをつけないといけない気持ちなのだ。彼女はいつか似合う身分の所へ嫁ぐのだから。

 それまででいいから側にいたい。そんな事を考えていると、


「マークス、考えてる姿もやっぱり麗しいわね。綺麗な瞳…。今日は寒くなるから、ちゃんと暖かくして保湿も忘れずに寝るのよ?」


 フレリアが微笑みながら俺に言う。こんなゴツイ体になっているのに、すぐに体調を崩すと本気で思っているのだ。


「そうするよ。ありがとう」


 と、俺が返事をする後ろで「姉さんのあれ、無意識だから罪深いよね」とライリーが肩をすくめていた。

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