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仮面の少女 【フレリア】

乱暴が連想される描写がございます。ご注意ください。

『いや…やめて…』


『大丈夫、みんな最初は怖いのさ』


『やめて…お願い…やめてやめてやめて!』


『可愛い子ウサギ。怯える顔を見せておくれ』


『いや!いや!やめて!!!』




『……フレリア?何してるの?』




「『やめて!!!』」




 自分の声で目が覚める。シーツは汗と涙で濡れていて、震える手で顔と体を触ると痛みはない。


「……本当に嫌な夢…」


 ベッドサイドに置いてある水差しから水を一口飲み心を落ち着かせる。


 あの"最悪の日"からずいぶん時間は経ったが、その記憶は今でも容赦なく私を襲う。

 唯一純潔だけは守れたけれど、心の大事な部分はあの日に色々と死んでしまった気もする。

 何より…


「マークスに見つかっちゃったのがなぁ…」


 ポツリと独り言を呟いて、私は顔を振る。ちゃんと現実に戻ってこねば。


 あの日、ほぼ裸の状態だったタギー男爵が馬乗りになっている所で、昼食を食べ終えたマークスがやってきたのだ。

 私が昼食後も遊ぼうとゴネていたのに待ち合わせの場所に来ないので、様子を見に来てくれたらしい。


 醜く太った裸の男の下に私が服を引き裂かれて転がっている。

 血まみれになっている顔の私を見つけて目を見開き、そのまま固まってしまった彼を見て、何故か私は急に頭が冴えた。

 その瞬間までは、力の敵わない相手に完全に諦めてしまっていたはずなのに、美しい緑色の瞳を見てすぐ"この少年を守らなくては"と思ったのだ。

 

 成熟しない子どもを襲うような変態が、天使のようなマークスを見て標的をそちらに変えてしまっては大変だ。

 私は血まみれの体でタギー男爵に体を巻き付かせ、固まったままのマークスに言う。


『あら、マークス。そんなに驚いてどうしたの?』


 そう言って、私は男爵に寄りかかる。タギー男爵の興味をこちらに向け続けなければならない。

 

『マークス、()()()()()あっちへ行ってて?』


 そう言って笑おうとしたけれど、顔も口の中もあちこち切れていて、頬が引き攣れてちゃんと笑えない。

 鼻血も出ていたし、すごく醜くかったと思う。けれど私は構わず笑いながら続けた。


『いつまでそこにいるの?()()()()見たい?』


 そう言って、私はタギー男爵の頬に唇を寄せた。


 胃から何かが上がりそうな程気持ち悪かったけれど、マークスをどこかへやらねばならない。私はそのまま頬を擦り寄せて『続きをしましょ?』と男爵へ告げる。

 男爵は急に積極的になった私に興奮した様子で鼻息を荒くし、私のまだ成長していない乳房を鷲掴み、むしゃぶりつく。


 私が白けた様子でマークスに向かい手でシッシッとやると、そこでようやく彼は走って逃げた。


 私はその足跡が聞こえなくなってから、タギー男爵へ向き直る。


『タギー様、あの子、乳母のジェナと一緒に出掛けていましたの。彼が帰ってきたという事は、もうすぐに彼女が来てしまいますわ?続きは今度……ちゃんと時間がある時に教えて下さいませ?』


 ね?と、首を傾げて男爵へ微笑む。


 私は心の中で祈った。


 お願い…お願いお願い…!


『そ、そうか。フレリアがその気になっているのに惜しい事だが…。もっと時間がある時に…するか』


 そう言うとタギー男爵は素早く衣類を着る。



 天が味方した。



 心の中の歓喜を悟られないように、私は名残惜しい振りをして男爵を見送った。


 悪魔がいそいそと帰った後、素早く部屋を片付けて、血が付いて破れた服は暖炉に投げ入れて燃やした。洗面所へ行って顔を洗い、着替えを済ませてから自分の部屋に戻る。



 布団にもぐり、全てを忘れる為に私は眠った。

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