冬めく二人は翠と桃
「ただいま!!」
美しい金桃色の髪を束ねた娘が相変わらずたくさんの書物を抱えて、大きな男と金桃の髪を待つ少年がいる部屋へ弾むように入って来る。
「おぅ、終わったか」
仕事帰りの男と、金桃の髪の少年はいつものように談笑をしていたようで、弾んで帰って来た娘を迎え入れる。
「マークス、ライリー!聞いて!私やっと本試験に通ったの!!これで春からちゃんと騎士団所属の医療人として働ける……わ?」
話をしている途中で男が彼女の手首を優しく掴み、首筋を反対の手で確認するように撫でる。
「その報せは最高だ。…で、今日はどうしてこんな暴れた痕があるんだ、フレリア?」
ため息を混じえて男が訊ねる。娘はすぐに観念したようで、試験合格の後に騎士団寮の一室に呼び出されたという。
男は「またか…」と項垂れる。
「姉さん…さすがにもうこのやり取り、し過ぎじゃない?」
二人の様子を見ていた金桃髪の少年が呆れたように言う。
「だって合格祝いをしたいって言われたから…」
しょんぼりした様子の娘を見て、男は軽く笑う。
「そうか、それはしょうがねぇな。…で、どんな事をされたんだ?」
「私は何もされてないわ!ちゃんと自衛したもの!……部屋に入ったら何故かその人と、もう一人別の男の人が裸で…その…」
あ、マズイ、と少年が言ったけれど、大きな男は背を屈めて彼女を見つめる。
「そうか。じゃあそいつの名前だけ教えてくれ。また挨拶だけしとかないとな」
娘はその意味が分かっていない様子で、彼の瞳を食い入るように見つめ、無邪気にその隊員の名を告げる。
「あぁマークス…相変わらず美しい瞳ねぇ。今日も癒されるわ…」
まるでわかっていない娘と、いつもの事過ぎてもはや挨拶が習慣化し始めている男を見つめて少年は溜め息を吐く。
「その人達しばらく使い物にならなくなっちゃわないといいけど…」
少年は呟いた。
「マークスも、今月もう何回目だよ。早く姉さんは自分のだって宣言すればいいのにさ」
続けて少年が言うと、男は優しく笑って返す。
「キリが無ぇからもう数えるのは止めた。あとフレリアは物じゃねぇから、そんな言い方すんなよ。それに、俺は…」
そこまで言って、男は娘を優しく見つめて微笑む。
「俺はフレリアがそのまま……良い相手が見つかるまで見守るのが役目だと思ってるから」
その言葉を聞いて、娘は弾けた笑顔を向ける。
「まぁ!じゃあそのままマークスが良い相手になってくれればいいわ!これからもずっと一緒に居られるし、良い相手になればその後も一緒に居られるって事でしょ?……って、良い相手って何かしら?」
相棒?かしら?と首を傾げる娘に「人たらし…」と少年がジットリとした視線を投げる。
「良い相手が何かよく分からないけれど、マークスがずっと見守ってくれるなんて最高だわ!私、貴方の美しい緑の瞳が大好きよ」
うふふ、と笑う娘に男は彼女の髪を撫でながら返事をする。
「俺も、フレリアが好きだよ。ずっとな」
少年がまだ種類の違う"好き"を言い合う二人を見て「まぁゆっくり引っ付いてよ。姉さんが自分の気持ちに気付いた瞬間が見ものだね…」と半分呆れた様子で呟いた。
「さぁ、今日も至極のマッサージタイム!マークス、お願いしてもいい?」
娘は相変わらず呑気な事を言っている。
いいぜ、と男が彼女の背中に触れた時、
「あ!でも今日は寒いから少しで大丈夫だからね。あまり遅くなってマークスが風邪でも引いたら大変だもの」
「そうだな。熱が出たら俺も部屋で裸で待ってるぜ」
先程の件を絡ませて言う男に、娘はパッと顔を上げて言う。
「いいわよ!ちゃんと暖めてあげるね!」
意地悪で嫌味を言ったつもりが、完全に娘からカウンターを受けた男は、顔を真っ赤にして固まってしまう。
「姉さん…ほんと、無自覚のヤツ止めてあげなね?こんなデカい男が頬染めるの見るの、気色悪いから」
「何よぅ!私ずっとマークスの憂いを取り払うって決めてるの!熱が出たら看病するのが当たり前でしょ!?ね、マークス!」
「……そうだな」
諦めた様子で男はまた項垂れる。
三人が笑い合う部屋の窓からは冬の始まりを告げる雪がチラチラと降り始めていた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。勘の悪いフレリア姉さん編、おしまいです。今回もお立ち寄り頂いた方のおかげで完走出来ました。本当にありがとうございました。




