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翠緑の獅子と薄桃の兎  作者: あまがえる


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天使降臨 【フレリア】

「駄目よマークス!この人おかしいの!マークス殺されちゃうわよ!」


「…っ危ねぇ!」


 急いでマークスの側へ駆け寄ろうとすると、慌てて彼がこちらへ飛んで来る。その一歩があまりにも大きくて思わず立ち止まる。


 シャリシャリとガラス片を踏みながら、マークスはこちらへやってきて「ガラスん中歩くな」と私を優しく持ち上げる。

 いつもマッサージで背中を押してもらうばかりで、正面からマークスと向き合う事なんてなかったから、こんな時なのに優しい逞しさに思わず見惚れてしまった。


「フレリア、遅くなってゴメン。大丈夫…な訳ないか」


 肩の傷や腫れた頬、殆ど裸の状態で無事も何もあったもんじゃない。けれど、大きくて優しい彼が来てくれただけで安心して涙腺が緩む。


「……ごめんなさい。本当は貴方に逃げて欲しかったんだけど、来てくれてとても嬉しいとも思ってしまって…」


 考えがまとまらず、涙をポロポロと落としながらマークスに言うと、近くのシーツで私を覆って背中を優しくさすってくれる。


「フレリアが謝る事なんか何もねぇよ。悪いのはお前の優しさを利用する輩と助けに間に合わなかった俺だ」


「でも…」


 マークスを変な事に巻き込んでしまった。前回もこんな場面を見せて傷付けてしまったのに。そう言葉にしたくても、体と心に安心が駆け巡り、涙が溢れて何も言えない。


「フレリア」


 とても優しい声色で、マークスが私の両頬に大きな手を添える。


「見てみろ。お前の好きな緑色だ」


 目の前にマークスの顔がある。優しい瞳と美しい緑。小さい時から変わらない私の大好きなものだ。その瞳がとても優しく、でも少し不安そうに微笑んでいる。


「…マークス…。私、怖かったわ…」


「うん」


「前の時も、今も、とても」


「うん」


「でも…私の大切な人、誰も傷付いて欲しくなくて…どうすればいいか分からなかったの」


「フレリア」


 彼がもう一度優しく私の名を呼ぶ。


「お前は俺を憂いから守ってくれるんだろ?」


 ふ、と軽く笑いながらマークスが私の涙を拭う。


「俺の中にある唯一の憂いは、お前がこんな風に傷付いてしまう事だ。お前が辛い思いをする事こそが俺の一番の苦しみなんだぜ?フレリア、俺は頼りないかもしれないが…こういう時はちゃんと助けを求めてくれ」


「っでも!マークスは優しくて脆いもの…」


 きっと人を傷付けたりなんて出来ない。マークスは天使のような穏やかと優しさを持っていて…


「お、おい!お前…こんな事して!!ただで済むと思うな!!」


 後ろから怒りで顔を真っ赤にしたタギー男爵が割って入る。手にはナイフを持っていて、ギリギリと歯を食いしばり悔しそうな顔をしている。


「大変…!マークス危ないわ!!あの人、ナイフを持っているのよ!逃げて!」


 すっかり忘れていたけれど、激昂した相手は武器を持っているのだ。喚く男爵にマークスは見たこともない冷たい視線を向ける。そして心底うんざりした様子で男爵に言う。


「うるせぇ、糞豚野郎。今大事な話してんだから黙れ」


 その言葉にタギー男爵は更に興奮し、ナイフをこちらに向ける。


「マークス!怒らせちゃ駄目よ!」


 しかしマークス男爵に目をやり、それがどうしたと言わんばかりに肩をすくめる。


「マークスってば!危ないわよ!逃げて!」


 返事をせずにため息を一つ吐いて、マークスは私を自分の後ろに隠すように優しく下ろし、男爵の方へ体を向ける。


「マークス!!駄目だってば!!」


「フレリア」


 彼の背中しか見えないから、マークスがどんな表情かは分からない。


「天使って神の遣いだろ?」


「…え?」


「見た目は可愛らしいかもしれねぇけど…」


 マークスはゆっくりと低い体勢になる。


「大切なものを護る為にはちゃんと強いからな?」


 彼はそう言ってまるで大砲のようにタギー男爵へ突っ込んで行った。

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