燃え滾る翠 【フレリア】
性的な暴力表現があります。ご注意ください。
「さぁ、フレリア、待たせたね。最高の夜にしよう」
悪魔が嬉々として私に馬乗りになっている。着ていた衣類はもう殆どその役割を成さず、細切れに切り刻まれてしまった。
服を全て剥ぎ取られた時に、玄関の鐘が鳴る。タギー男爵は「来たか?」とか言いながら、鐘の音は無視して私の肌を触る。
気持ち悪くて涙が溢れると、悪魔はこの状況がお気に召したようで「そう!その表情だよフレリア!」と言いながら乳房を捏ねる。
唇を噛み締めて気持ち悪さに耐えていると、扉が強くドンドンと叩かれた。
男爵はニヤリと笑ってナイフを私の頬の横にピタリと当てた。喋るな、という事らしい。
「……誰だい?」
男爵の問いに答えた声の主は、絶対ここに来て欲しくなかった人だった。
「夜分にすみません。アリアストリ家のフレリア嬢がこちらに居るとうかがいまして、迎えにあがりました。アリアストリ家侍女の甥でマークスと申します」
マークス!
駄目よ、ここに来ちゃ。相手はナイフを持っているのに。私が声を出そうとすると、男爵はナイフを待つ方と反対の手で私の口を塞ぐ。そして私の頬を舐めながらマークスに帰るように告げる。
そう、帰って。
帰って、マークス。ここは危ないから。
そう思う心とは反対に涙がどんどん溢れてくる。強がりの後ろにある隠しきれない恐怖と、助けて欲しい気持ちがグチャグチャになって涙になる。助けて欲しい。でも帰って欲しい。
マークスは何とか部屋に入ろうとしているけれど、男爵はのらりくらりと返事をして彼をかわす。
すると、マークスがとんでもない事を言った。
「では、男爵、僕を召し上がっていただけませんか?」
あまりの驚きに思わず体を起こしてしまうと、男爵は舌打ちをしながら私を再びベッドに押さえつけ、ベッドのスプリングがギシリと鳴った。
駄目よマークス、美しい貴方が汚されてしまう。そんなの駄目。
なのにマークスは自分を好きにしていいなどと信じられない提案をする。
私が堪らず起き上がって扉の方へ行こうとすると、強い力で髪の毛を引っ張られ、その拍子にナイフが肩を掠める。
ヒヤリとした痛みが肩に走り、痛みでその場にうずくまると、男爵は音も出さずに私の腹を蹴り上げた。
駄目、この人おかしい。こんな人の所に来ちゃ駄目。マークスが死んじゃう。
肩と腹を押さえながら祈っていると、しばしのやり取りの後、マークスは引き下がった。良かった。早く、帰って。
遠ざかる足音を聞きながら、最後にマークスの瞳が見たかったな…そんな事をぼんやり想っていると、再び髪の毛を思い切り引っ張られ、頬を打たれた。ジワリと唇の端から血が滲む。
「ハローフレリア。君の用心棒は帰ってしまったねぇ。意外と呆気なかったなぁ」
薄く笑いながらタギー男爵は私の唇を貪った。
抵抗はしない。早く終わりますように。湧き上がってくる色んな感情を押し殺しながら時間が過ぎるのを待つ。
せめて殺されませんように。体が汚されてしまっても、心だけは渡すものか。
「えらく大人しくなっちまったなぁ?痛い方が好みかい?」
つまらなさそうに男爵が肩の傷をナイフの柄で叩く。痛みに思わず声が漏れてしまったけれど、それでも耐える。
男爵はそれが不服なのか、舌打ちをして私の足首を引っ張った。
「破瓜の時はちゃんと"痛いわおじ様、やめてお願い"って声を出して泣いてくれよぅ?頼むぜぇ?」
ヒヒ…と笑いながら閉じていた私の太ももを強引にこじ開け、肥った体を密着させてきた。
どんな痛みでも決して声なんか出すものか。
目をギュッと瞑って唇を噛む。
「へへ…いただきまぁ〜す」
その時。
窓ガラスが大きな音と共に砕けた。
さすがに驚いた男爵がそちらへ目を向けると、玄関に飾られていた狸かイタチか、そういう類の剥製がガラス片の中に転がっている。
「な、何だ?!」
男爵が窓際の様子を見に行った瞬間、小さい熊の剥製が更に投げ込まれ、その熊よりも大きな影が後ろから見えた。
「誰だ?!貴様!」
「黙れ糞野郎。挨拶はさっきしただろうが。てめぇフレリアに何て事してやがる」
今まで一度も見た事のない怒りの炎が、緑の美しい瞳の中で揺れていた。




