初夏の二人
「フレリア、やめようよぅ。怒られちゃうよ」
「まだそんな事言ってるの?そんなだからいつまで経っても私に木登りで負けちゃうのよ」
艶やかな薄桃色の髪を一つにまとめて、勝気そうな少女がスカートをたくしあげる。
「ねぇ、怪我しちゃうよ。危ないよぅ」
少女の後ろにいる小柄な男の子は、彼女の服の端を弱々しく掴み、ささやかな抵抗を試みるが、少女は少しも気にしない。
「ふふ、大丈夫よ。私すっごく上手いんだから。それに何かあっても必ずマークスの事も守ってあげるわ!」
見てなさい?と言いながら、少女は大きな木によじ登る。男の子もそれを真似て木に足を掛けるが、貧弱な手足では自分の背丈ほども登れずにズルズルと滑り落ち、その間に少女はスイスイと上に進む。
男の子は諦めて、木の下から少女を見守った。
「もぅ、マークスやめちゃったの?まだまだねぇ。いーい?木登りっていうのは、こうやって足を思いっきり広げて…」
「ふ、フレリア!その、下着が…み…見えちゃうよ!それに危ない…」
男の子が顔を真っ赤にして言うと、少女はだからどうしたと言わんばかりに叫ぶ。
「そんなのマークス相手だったら全然恥ずかしくないわー!ほら、早く登ってきなさいよー。素敵な眺めー!」
彼女が勇ましく木の上から叫んでいる中「違う…僕が恥ずかしいんだ」とボソボソ喋る男の子の側に小さな蜂が飛んで来る。
気弱な彼は虫も苦手で、青白い顔で頭を振る。
「わ!蜂だ!あっちへ行け!」
怯えながら蜂を振り払おうとしている男の子を見て、少女は叫ぶ。
「まぁ大変!私に任せて、マークス!そのまま、動いちゃ駄目よ!」
「え?」
言うと同時に自分の背丈二つ分よりもっと上から、やあっ!と彼女は飛んで来た。
「危ない!フレリア!」
ドシン
体に強い衝撃が走り、男の子は息を詰める。
「う……」
「やだ!マークス!しっかりして!」
馬乗りになりながら少女は自分の下でのびている少年の肩を揺する。何がどうなったか分からないけれど、自分の上に少女が乗っているのを見て、男の子は彼女の無事に安堵した。とんだお転婆である。
「ほら!蜂はやっつけたからね!ちょっと一緒にマークスも吹き飛ばしちゃったけど、マークスの憂いはいつでも私が追い払ってあげる!」
親指を立てて、どうだ!と微笑んだ彼女の足の下にはペタンコになった蜂がいた。
「…もう…フレリア。あまり無理しちゃ駄目だよ…。いつか大きな怪我しちゃうよ?」
心配そうに言いながら小柄な男の子は、彼女の服に付いた木や葉っぱを一つずつ丁寧に取り、ボサボサになった薄桃色の髪の毛を整える。
「大丈夫よ、私頑丈だもの。それにいつかお医者様になって、沢山の人を助けるまで怪我なんてしてられないんだから。あ、でもお医者様になったらマークスを最初の患者さんにしてあげるからね!」
少女は少しも懲りた様子を見せずに、男の子の髪を撫でる。
「それにしてもマークスはいつ見ても美しい瞳よね。華奢な体と儚げな雰囲気…小説に出て来る妖精のようだわ」
彼の髪の毛を耳にかけながら、まじまじと顔を覗き込んで少女は彼の瞳を眺める。その空気に彼が堪らず頬を染めると、その様も美しいと何度も連呼し、一層彼を困らせるのだった。