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9.暗闇の向こう側へ

「いきましょうっ!」


 美月は彰人の手を強く掴むと、勢いよく走りだした。

 突然、腕を引っ張られて彰人は「うわっ」と驚き、よろけながらも美月の後に続いた。

 その瞬間、彰人は重苦しい何かからぬるりと抜け出たような、今まで感じたことのない奇妙な感覚に見舞われた。分厚い皮を脱ぎ捨てたような、ずっと背負っていた重い荷物から解放されたような、本当に奇妙な感覚だった。

 美月と彰人はそのまま教室を飛び出し廊下へと出た。


 美月に手を引かれて、彰人は廊下を走った。


 不思議なことに、体がとても軽かった。腕や足はまるで羽根のようで、少し力を込めれば飛べるんじゃないかと思えるほどだった。さらには、体の奥底からは止めどなく力が湧き上がってくるのを感じた。今すぐ暴れ出したいような、飛び跳ねたいような、大声で叫びたいような、そんな高揚にも似た抑えきれない衝動。今にも爆発しそうなほど体の芯が熱かった。

 だから……、

 彰人は湧き上がってくる感情に任せて思いっきり笑った。胸の奥底に溜まったものを声と共に吐き出すように力いっぱい笑った。

「あははははははははっ!」

 そんな彰人の隣で美月も笑う。

「ははははははっ!」

 なぜだろう、先ほどまで見下ろすばかりに小さく感じた美月が、今はずいぶんと大きくなったような、そんな気がした。



 二人は手を繋いで廊下を駆けていく。

 楽し気な笑い声と軽快な足音を響かせて、暗闇が広がる廊下の先へと進んでいく。

 暗闇が二人の姿を覆い隠し、暗く、黒く、見えなくなる。

 暗闇の中、二人の笑い声と足音が遠ざかっていく。

 笑い声も足音も彼方へと遠のき、小さくなっていく。

 そして遂には、何も聞こえなくなった。



 学校の中がしんと静まり返り、無音の中へと落ちていく。

 全ての物が熱を失い、急速に冷えていく。

 動くものは何ひとつ無く、時間さえも止まってしまったかのように全ての物が動きを止める。

 ただ、暗闇だけが音も無く広がっていく。



 校舎と校舎に挟まれた中庭には、外用の掃除用具や園芸用の肥料などをしまっておく倉庫があった。

 倉庫のほぼ中央には框があり、そこには一組の靴とコンビニの商品が詰まったビニール袋が置き去りにされていた。

 袋の中で商品がバラスを崩して倒れ、ガサリッと音を立てた。



 夜はますます更けていく。

 学校は、更なる夜の暗闇の中へと沈み込む――。


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