メリーゴーラウンドデイズ 7
「へぇ〜」
カンナが間延びした声を上げた。両目がきらきらと輝く。頭の後ろで両手を組んでいるが、完全に臨戦態勢だ。
「お望みでしたら、今この場に色々呼び出すこともできますよ。話し合いの邪魔になるとは思いますが」
「キョウカ、ちょっと」
挑発するような言葉を口にするキョウカの袖を引く。前に聞いた話が本当なら、キョウカがエクストラを自在に操れるのは本当だろう。でも、彼女に争う意思はないはず。だって。
「きちんと仲良くなる、んでしょ」
「……」
あの日の言葉。あれは、絶対に嘘じゃない。キョウカの唇が一度開いて、閉じた。
「あなたは…まあいいでしょう。そうですね、私には皆さんと敵対する意思はありません。信じていただけるかは分かりませんが」
「其方も失われし翼を求める旅人。既に盃を共にする一族であろう」
サカキがお茶を飲みつつ答えた。たぶんもう仲間だよ、というようなことを言っているんだと思う。
「信じる信じないはともかく、事実として昨日も今も攻撃してきてないわけだからね。少なくとも害意はないと思ってるよ」
カズラも餅を飲みながら同意した。マユミはまだ困り顔で、ちらちらカンナを見ている。
「ま〜どっちでもいいけどね〜。やるんだったら全力でやるだけだし〜」
カンナがにやっとアヤメに笑いかけるが、アヤメは表情を崩さない。ナズナは感情の読めない笑顔のまま成り行きを見守っている。
「では、続きを。そうですね…丁度話題にも挙がったことですし、エクストラとは何か、についてお話ししましょうか」
キョウカが立ち上がり、黒板の前でチョークをとる。そこからの話は前に聞いたのとだいたい同じだった。生徒が優秀だから進行もスムーズだ。時間が経つにつれ、アヤメもぽつぽつ質問するようになった。好悪の感情はともかく、今の状況を理解したいという方が勝ったようだ。
「話をまとめると、エクストラはもう出てこないってことでいいのかな?力を集める必要は無くなったわけだし」
カズラが二十四個目の餅に手を伸ばしながら言った。前に聞いた話だしなんか前より難しくなっているしで、私の集中力はとっくに切れてカズラの餅消費量をカウントして時間を潰していた。切り餅一つでお茶碗一杯分のカロリーとかじゃなかったっけ?
「そこなんですが、エクストラは出ます。今までよりも数は減るでしょうが」
「それはどうして?」
「正確にはエクストラのようなものが出ます。今までのように私の管理下ではなく、目的もない。この世界のもつ、ある種の生理現象のようなものと考えてください。世界の崩壊は防がれましたが、今は力が複雑にもつれて絡まり合い、干渉できない状態です。かなりやっかいですね」
俯くキョウカに嘘をつている感じはない。要するに恒常クエストステージみたいなもんだろうか。そのやっかいな状況を作り出したのが自分だと思うと、何だか居心地が悪い。
「ああ、そうそう。サクラについてですが」
顔を上げたキョウカがサクラを見る。今この場にいる私ではなく、元のサクラについてのことだとすぐに分かった。
「本来のサクラはその体の中にいる、と言いますか。薄膜で包まれて眠っているとでも表現したらいいでしょうか。前よりは近い位置にいますよ」
「えーと、それもやっぱり…」
「あなたのせいですね」
相変わらず目が冷たい。でも何も言い返せない。改めて、私のやらかしたことの影響の大きさを認識する。
「まあそこを言い立てても仕方ありません。私だけではどうしようもないので、あなたを呼び出したんです。役に立ってもらいますよ」
「はぁい」
素直に返事をすると、キョウカの表情が少し和らいだ。何をさせられるのかは分からないが、私にできることなら協力したい気持ちは変わらない。この体をサクラに戻す。その時期がズレただけのことだ。
「うーん、話を聞いている限りだと今までの生活とあまり変わらないということかな?サクラの負担は大きそうだけど」
ナズナが頬杖をつきながら口を開いた。確かに、出現したエクストラに対応していくというだけなら今までと何も変わらない。数が少なくなるというなら、むしろ今までよりも楽かもしれない。
「その変わらないというのが問題でして。このもつれた世界をそのままにして、三月が終わったらどうなると思います、サクラ?」
「えーっと…?」
質問の意図がよく分からない。三月、というのがタイムリミットっぽいが、何故そこなのだろう。
「分かりませんか?」
「うん、ごめん」
「教えてあげましょうか?三月が終わると、四月になります」
バカにしてんのかコイツ。ちょっと目付きが鋭くなってしまったが、キョウカの瞳は静かなままだ。茶化しているわけではないというのは伝わったが、やはり意味が分からない。
「もう少し考えてみてくださいね。あなたの知るこの世界で、三月から四月になったら何が変わりました?」
「何がって…」
私の知っている『百花乱舞』で、三月から四月の切替で何かが起こるというのは無かったはずだ。新生活応援ログインキャンペーンとか桜咲く花吹雪ガチャとかそんなのはあったが、ストーリー上特筆すべきイベントは記憶にない。
「何もないと思うけど?」
「そうですね。何もない。何も変わらない。…まだ、気付きませんか?」
何も変わらない。そう、変わらない…メインキャラもそのまま変わらない。変わら、ない?
「あ…」
「変わらないんです。四月になっても、暦も、学年も。一年生のあなたは一年生のまま。卒業式を終えた三年生はまた三年生。同じクラスで、同じ授業。あなたたちの記憶は残ったまま、同じ時間が始まります」
季節に沿ってイベントやガチャが投入されるソシャゲのお約束。サ○エさん時空とも呼ばれる、同じ時間軸の無限ループ。
私達は、メリーゴーラウンドのようにぐるぐる繰り返す世界に閉じ込められているらしい。




