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メリーゴーラウンドデイズ 1

 ぼやけた視界に、薄暗い天井が映る。カーテンの開け放たれた窓から差し込む月光が、全てを青白く染めている。見慣れた漆喰の天井。頬に触れる空気が冷たい。アカメデイアの寮の部屋。基本的に同じ作りの部屋が並ぶ寮でも、それぞれの主によって空気が違う。この感覚は、間違いなくサクラの部屋だ。ベッドに横になったまま、思考が追い付いてくるのを待つ。

 戻って、きた?サクラに?どうして?身じろぎしようとして、左手ががっしり固定されているのに気付いた。まだうすぼんやりとしたまま、頭をゆっくり動かす。さらりと触れる髪の感触。サクラの、絹糸よりも滑らかな髪だ。懐かしいような、甘酸っぱいような。不思議な感情に包まれながら、左側に視線を移していく。

 そこに、それはいた。

 黒々とした影が、ベッドの横に澱んでいた。月光の下にありながら、その光全てを吸収するかのように黒い。その影から青白い手が突き出て、サクラの手を握り締めている。

 ひぃ、と声にならない悲鳴が洩れる。反射的に引こうとした手が、全く動かない。動きに反応したのか、影が揺らいだ。ぐりんと頭に相当するであろう部分が動く。漆黒の隙間から、色を失った顔が見える。充血し濁った白目の中に浮かぶ虚ろな瞳がサクラを捉えた。血の気の引いた唇が、ゆっくりと動く。


「サ、ク、ラ」


 地を這うような音が吐き出される。じり、じりと影がにじり寄るのを、何もできずに呆然と見ることしかできない。体が動かない。恐怖で思考が止まる。どこか遠くの映像を見るように、長い黒髪の張り付いた顔が迫るのを見ていることしかできない。


「サク、ラ」


 サクラに覆い被さる影が、再びその名を呼ぶ。真っ黒だった瞳の奥に、ちらりと光が走る。と思うと、そこからぼたぼたと熱い涙が零れ落ちた。


「アヤメ…?」


 そう口にすると、目の前の顔がぐしゃりと歪んだ。青白い唇から嗚咽が漏れる。震える腕がサクラの小さな肩に回され、アヤメが覆い被さってきた。堰が切れたように泣き続けるアヤメの体に、サクラも腕を回す。震える背中をゆっくり撫でながら、青白い天井をただ眺める。


──誰か、この状況を説明して?

アカメデイアに戻ってきた「私」。戻ってこないサクラ。帰還時に色々やらかした爪痕の残る世界で、何が起こるのか。お付き合いいただけますと幸いです。「メリーゴーラウンドデイズ」は週1回程度の投稿を予定しております。


なお、第2部(2巻相当分)は今のところ完結まで書き上げる予定はありません。皆様の反響があればもう少し練って書き上げたいと思っています。具体的にはブックマーク200人くらいを指標にしようかと。要は現状それを遥かに下回っております。せっかくだからもっと読みたい、あるいはおもしろそうだからちょっかい出してやろうかという方はブックマークをお願いいたします。


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