更新通知 2
ワンルームのマンションまで戻り、バッグをフローリングの床に転がすと、パーカーのままベッドに体を投げ出す。寝転がってもう一度、スマホの画面をスワイプしていく。
『百花乱舞』には、変わらず更新の青ポチが付いている。電車の中でも、何十回も確認した。検索をかけると「百花乱舞 サ終」がサジェストのいちばん上に来る。攻略wikiとSNSも漁ったが、何かの奇跡でゲームが復活したということはないようだ。もし、奇跡があるとするならば。
「これって、アレだよねえ…」
あの日。私がこの世界に戻ってきてすぐに『百花乱舞』を起動した時には、何もなかったはずだ。その後も、更新通知には気付かなかった。いくら私が抜けてるといっても、今日まで完全スルーってことはない。つまり、この更新は今日くらいに実施されたはず。
サ終したゲームを更新するなんて現実世界ではあり得ない。何せサーバそのものがもう残っていないのだ。どこぞの天才ハッカーがサーバを乗っ取って『百花乱舞』を復活させたとかすればできるのかもしれないが、あんな過疎ゲーに手を出す物好きがいるとも思えない。だとすると、この青ポチの意味するものは一つ。
向こうの世界で、何かが起きている。これはきっと、私を呼び出すためのサインだ。修復が終わったはずの向こうで何があったのかは分からない。キョウカの話だと、私がこの世界に戻ればサクラも元の体に戻るはずだった。私はただのユーザーに戻る。全てが元通り。そのはず、だった。
画面に触れようとする指が躊躇い、揺れた。起動することで何が起きるのか。サクラが元の体に戻っているなら、私は居場所が無いはずだ。どんな形であの世界に現れることになるのか、全く読めない。
表示が暗くなるその瞬間、私の指が『百花乱舞』のアイコンに触れた。そのまますうっと画面がブラックアウトする。電源が落ちたのではなく、ゲーム起動の合図だ。何もかもがわからないけど、それでも。
「百花乱舞」
聞き慣れたやや幼い甘い声が聞こえると同時に、私はベッドに吸われるように落ちていくのを感じた。部屋がぐにゃりと歪み、光と闇の渦に呑まれていく。
私にできることがあるなら、必要とされているなら、それに応えたい。私は目を閉じ、体を落ちるに任せた。




