パステルカラーストーム 17
日が落ちて、薄暗い電灯に照らされた車内は寒々しい。四人掛けのボックス席に、来た時と同じくキョウカと並んで座る。直接神社の場所まで移動できると言うキョウカに、ゆっくり戻りたいと頼んでまた汽車に揺られているのだ。やっぱりずるずる引き延ばしたくなってしまっている自分に苦笑する。
暗くなってきたしまたアカメデイアの食堂で夕ご飯を食べたいなとか、欲がどんどん膨らんでいく。ダメだな私。
「もう一度説明しますね」
キョウカが静かな表情で、これから何をするのかを整理してくれる。
「大岩の前に出たら、杖を出してください。そこから先の力の誘導は、私がやります。途中で何が起きても、力の放出を止めようとしないこと。中途半端に止めると、暴走して崩壊が止められなくなる危険性があります」
「うん」
「あなたの力を全て引き出せば、あなたとサクラが置き換わって一時的にあなたは時空の向こう側に放り出される形になります。その後元の世界に戻ると思います。その間のことは知覚できないでしょうけど」
「気がついたら元に戻ってるってことね。向こうは時間が経ってるのかな」
「推測しかできませんが、この世界に来た時そのままの時間軸に戻ると思います。この世界の方が下位なので、影響は与えられないはずです」
「まあよく分からないけど、分かった。後のことはよろしくね」
「サクラは必ず寮まで送り届けます。手紙も、皆さんに届けますよ」
「うん。ありがと」
車窓は真っ暗だ。時々民家の明かりが漏れているのか、ぽつぽつと光の点が流れていく。
こっちの世界に来たのは夏の終わり。訳も分からないまま部屋に押し掛けてきたアヤメと話して、サクラになったことを受け入れて。授業を受けながらアクセプタントの皆と関わっていく中で、ここで生活するのが当たり前になっていった。
もう冬になって、もうすぐ新しい年を迎える。ゲームではないこの世界では、3年生のサカキとナズナは卒業だ。ストーリーでは決して描かれることの無かった卒業式とその先の物語は、どんなものだったんだろう。こうしてキョウカが現れなければ、新入生からアクセプタントになる子が出たのかな。サカキは卒業してもなんだかんだでアカメデイアに出没しそう。
楽しかった。
楽しかったな、うん。
ゲームでたくさん楽しませてもらった上に、こうしてもっとたくさん夢みたいな時間を貰えた。その世界を守れるんなら、好きなだけ私の力を使って欲しい。
窓から見える明かりが増えてきたな、と思っていると、列車はゆっくり速度を落としていった。所々電灯で丸く照らされたホームに、ほとんど揺れることもなく停車する。
客車から降りたのは、私とキョウカの二人だけだった。闇の中にちらちらと火の粉を吹き上げて去っていく汽車を見送る。
「では、行きましょうか」
「うん」
キョウカが鏡を出し、目を閉じる。巫女姿の戦装束に変身したキョウカが鏡を高く掲げると、周りの全てが闇に溶けるように歪んだ。
ふうっと軽い貧血のような感覚が襲う。思わず足を踏み出すと、足元で枯れ草が乾いた音を立てた。
辺りは真っ暗だ。見上げると、雲一つない満天の星空が広がっていた。葉を失った木々の枝が、視界を縁取る。
闇の中でも、感覚で分かった。かつてあった寺は跡形もなく、所々に木の生えた空き地のようになっている場所。一度だけ来たことのある、キョウカの元になった少女が祀られていた場所。
「こっちです。行きますよ」
キョウカの全身がうっすら発光している。パステルブルーの光に導かれるように、私はキョウカの手を取った。




