百花の少女達 5
結局私の提案は3年生にも相談してみるということで、いったん保留となった。でも頭脳担当のマユミが悪くないと言っているのだから、たぶん通るだろう。
「変わったね、サクラ」
マユミが呟くように言う。え?と聞き返すと、翡翠の瞳が真っ直ぐにこちらを覗き込んできた。
「前はこんなこと考えるような感じじゃなかったと思うんだけどな。ううん、考えていたのかも知れないけど、言えずにいたと思う。なんだろうね、別人みたい」
──実際別人です。鋭いなこの人。思わず頬が引きつりそうになる。ゲームでも唯一アクセプタントになる前からエクストラの存在を感じてた描写があったり、巫女っぽい素質を暗示されてるキャラだった。
「私も変わりたいんですよ、マユミ先輩」
「ふぅん…」
にっこり笑顔を作って言うと、マユミはふっと目の力を抜いた。
「そう。悩んでいることがあったら私にも相談してね」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げ、アヤメと一緒に部室を出る。アヤメとは今回の提案が通る前提で、連携の訓練をすることになっている。これから食堂に行って、夕ご飯を食べながら作戦会議だ。
「…どう思う?」
「ん〜、お似合いじゃない?」
「そういうことじゃなくて」
部室に残った2人。マユミが丁寧に黒板消しをかけていく。カンナは足を投げ出して椅子に座り、まだ明るい窓の外を見ていた。
「サクラは…」
「サクラはサクラだよ」
疑問を含んだマユミの声を、きっぱりとカンナが遮る。黒板消しの手を止めて、マユミがカンナを見た。
「間違いなく、あれはサクラだよ。他の誰でもない。それでいいでしょ」
「そう、だね。カンナがそう言うなら、そうなんだろうね」
昨日の戦闘で、サクラが意識を失った時。
マユミはサクラの中に何かが『入った』のを感じた。
エクストラのように、この世界の理から外れたもの。
でも、エクストラとはまた異なるもの。
エクストラが出現する前に感じていたような、ざわつく嫌な感じではないけれど。長くは続かなかったその感覚は、マユミを少なからず不安にさせていた。共に戦闘に参加していたカンナにだけは伝えていた違和感。
カンナが見つめる先には空しかない。マユミも同じ空を見上げる。
秋の近付く空は、ただただ晴れ渡っていた。