パステルカラーストーム 16
通りに並ぶ商店を覗きながらぶらぶら過ごし、鯛焼き屋で少し休憩した。キョウカが言うには、私の力を引き出すにはあの神社の大岩の前が最適だそうだ。時間は夜。月の出と同時に始めたいらしい。
「あの山道を夜歩くのキツくない?」
「何も道沿いに行かなくてもいいと思いますよ。なんならここからでも転移できますけど」
「え、そんなこともできるんだ」
「それはまあ。着ているものがいきなり戦装束に変わるのは気にしなくても、そこは気になるんですね」
言われてみると確かに。変身はお約束として当たり前に受け入れていた。殴ったら大爆発とか斬ったら凍るとか、不思議なことをしまくってたな。サクラの回復も大概か。
「それで、いつにしますか?できれば冬休み中にはやりたいです」
「今日、やっちゃおう」
「…それでいいんですか?そこまで急がなくても大丈夫ですよ」
「うん。今日の方がいいと思う」
自分がこの世界から消えると分かっていて、皆と顔を合わせて過ごしていたら決意が緩みそうだ。ずるずる引き延ばして、どんどん離れるのが辛くなっていくのが目に見えている。それなら今、このままの勢いでやってしまった方がいい。
「あ、まだ時間あるよね?皆に手紙書きたい。後で渡してくれる?」
「ええ。必ず」
「じゃあ、便箋買わないとだ。途中に文具屋さんあったよね?」
「そうですね。行きますか」
かりかりした鯛焼きの尻尾を飲み込み、立ち上がる。皆に書くとなると、あんまり時間は無い。忙しくなりそうだ。
鯛焼き屋を出ると、もう日は傾きだしていた。文具屋に立ち寄り、便箋と封筒を買う。桜の花びらをあしらった、うっすら桜色の便箋。何で書くかを悩んだ末に、鉛筆も買う。家族宛の手紙を書く時に万年筆を使ってみたけど、どうにも慣れなかった。ボールペンは無いようだし、友達宛ならまあいいだろう。
どこで書くかが思い浮かばず、駅まで戻り待合室に入った。ベンチに座り、下敷き代わりにキョウカの鏡を借りる。ものすごーく微妙な顔をされたが、テーブルが無いんだから仕方ない。ざわざわと人の出入りがある部屋の隅で膝に鏡を乗せ、便箋を広げる。
内容はシンプルに、今までサクラと入れ替わっていたこと、それを内緒にしていたことへの謝罪と、サクラをよろしくね、と書くことにした。思いを伝えようとすると、色々溢れてしまいそうだから。本当に一言だけ、最後に付け加える。
ナズナ先輩。朝の特訓に付き合ってくれてありがとうございます。すごく楽しかったです。サクラは運動は苦手だけど、嫌いじゃないはずです。また誘ってあげてください。
サカキ先輩。名前で呼んでくれるの、嬉しかったです。もっと色々話したかったな、って思います。サクラとも仲良くしてくれたら嬉しいです。
カズラ先輩。いつも冷静に、私のことをよく見て考えてくれてたんだなって気付きました。サクラのことも、支えてあげてください。
カンナ先輩。色々振り回された気はしますが、それが楽しかったです。でも、サクラには少し手加減してくださいね。
マユミ先輩。今考えると、私のことを知った上で優しくしてくれてたんだなって分かりました。サクラ、きっと色々不安だと思うので同じように優しくしてあげてください。
アヤメ。
アヤメ。ありがとう。言いたいことがいっぱいありすぎて、ちょっと書ききれないや。本当に、ありがとう。




