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パステルカラーストーム 14

 まだほんのり温かい竹皮の包みを開き、焼きおにぎりを取り出す。一口含むと焦げた醤油の香りが広がり、食欲が増していく。隣のキョウカも膝の上で包みを開いた。鏡はいつの間にか消えている。


「よく食事をしようという気になりましたね」

「もうお昼だよ」

「まあそうですけど。この世界がどうとか自分が消えるとかいう話をしている最中に…。だからこそあなたが選ばれたんですかね」


 列車が駅を離れてから、お互い少し無言になった。その時に思い出したのだ。お昼ごはんをまだ食べてないと。焼きおにぎりが冷めると。いや別に食いしんぼうキャラじゃないぞ。おいしいごはんを放置するのが許せないだけだ。

 キョウカの話を整理すると、ズタボロになったこの世界を修復するのに力が必要で、それには私の力を使えば十分ということ。そしてそれによって私はこの世界から消えるけど、サクラは元のサクラに戻るだけ。問題は無さそうだ。無さそう…うん?


「ねえ、キョウカ」

「はい?」

「私が力を使って世界の穴?を塞いだとして、私はどうなるの?」

「ああ、気が付きましたか。本当なら真っ先に気にするべきところだと思いますけど、それがあなたのいいところですよね」


 焼きおにぎりを頬張りながら、キョウカが生温かい微笑みを浮かべる。イラっとするが、言い返せない。


「あなたは特殊すぎてよく分からないんですが、元の世界に戻るんじゃないですかね?」

「何でそこだけ曖昧なの?」

「あなたの存在する軸がかなり違う方向を向いているというか…。重なり合う部分はあるんですけど、全体を見通せないんです。まあでも、大抵の場合こことの繋がりが切れたら元の場所に引き戻されるので、元の世界に戻るとは予想できます」


 分からないのも、そう予想しているのも本当のようだ。キョウカの表情を読めるほど知っているわけではないけど、なんとなくそういう嘘はつかないんじゃないかな、くらいは分かるようになってきた。


「ちなみに私の力を使わないとすると、どうなる感じ?」

「本来であれば今までと同じで、皆さんから力を吸い上げて修復していくことになるんですけど。あなたの力を受け取ってからかなりバランスが崩れているので、うまくいくかどうかは半々ですかね」

「えーと?」

「予想外に私の力が強くなってしまったので、内側から崩壊する可能性があります。皆さんに力を与えている神とのバランスが取れていないんです」

「崩壊…って、どうなるってこと?」

「ちょっと影響が出るくらいの話なら、昔話のように気候システムの不調で済むんですけどね。完全な崩壊となると、星系そのものに影響が出ます」

「せーけー」

「あー…太陽が爆発するとか、そういう感じだと思ってください」

「え、大事じゃないのそれ」

「そうですね。なので、防ぎたいという話なんですけど」


 ちょっと話の規模が大きすぎない?とは思うが、そもそもこの世界の法則を無視した争いだった。太陽が爆発するかどうか半々って、とんでもなく危険な状態なんでは。焼きおにぎりを食べながらする話じゃない。

 私の力を使って丸く収まるならそれでいい。でも、まだ分からないことがある。


「最後に一個。キョウカはどうしたいの?」

「私ですか?」

「うん。キョウカの気持ち、全然聞けてないから。この世界を守りたいのは、神様の意思なのか、キョウカがそう思うからなのか。守った後、キョウカはどうしたい?」


 アクアマリンの瞳が、大きく見開かれた後歪む。笑ったような、泣いたような顔。


「相変わらず、ですね」

「ん?何が?」

「まあいいです。そうですね、私もこの世界が崩壊するのは望みません。一応私が育った世界ですし。守った後は──」


 キョウカが窓の外を見る。駅周辺以外は森と畑ばかりだったアカメデイア周辺と比べると、ずいぶん家の密度が高くなってきた。サクラの住んでいた街が近付いてきている。


「もう少し」

「うん」

「もう少し、ここで生活できたらなと思います。皆さんとも、きちんと仲良くなりたいです」

「うん」


 それがキョウカの素直な気持ちだと、すとんと納得できた。いつの間にか晴れ間が覗くようになった空から、光が差し込む。天使の梯子って言うんだっけ、こういうの。


「じゃあ、どうしたらいいのか教えて。私にはやり方が分からないから」

「はい。お願いします」


 汽笛が鳴り、列車がごうごうと音を反響させながらトンネルに入る。短いトンネルを抜けると、家並みの向こうにきらきら輝く海が見えた。

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