パステルカラーストーム 13
「えーと、ちょっといいかな?」
「何ですか?」
鏡に映る私の姿は、美少女に慣れ切った目にはキツい。同じ格好でも、これがアヤメならちょっと気が抜けた感じもかわいいな、になるんだろうけど。もう少しマシな場面もあるだろうに、何故この姿を切り取った。正直悪意しか感じない。
「それ映すの、やめてほしいかなーって。心臓に悪いというか、目に悪いというか」
「そうですか?まあ、気になるならやめますけど」
鏡の中の私が消え、誰も座っていない座席が映る。知らずに入っていた体の力が抜けた。
「えーと、何の話だったっけ」
「サクラの、というかあなたの力の話ですね。次元が違う、というのは分かってもらえました?」
「うん」
キョウカの説明の仕方が上手いのか、私でもそこそこ理解できたと思う。ゲームしてるプレイヤーという解釈で大きく間違ってはいないだろう。たぶん。
「次元が違うと圧倒的な力を持つ、というのは…まあ、今やったみたいに低次元の法則では理解できない振る舞いができるというのと、単位が違うという感じですかね」
「単位が違う?」
「平方と立方の違いというか…その、コップに水を入れてテーブルに置いたとして、平面の世界で認識できるのはコップの底が触れている面積だけですよね?でも、中に入っている水をこぼすとテーブルを覆い尽くして床に流れるくらいの量がある。それくらい差があると思ってください」
「なるほど?」
何というか、小学生にも分かるように易しい例えを使って説明してくれている感がすごい。それでも理解できているかは怪しいけど、頭脳担当はアヤメだからいいんだ。うん。
「それで、どうしたら生き残れるかという話でしたっけ」
「ああ、そうそう。そこが聞きたかった」
本題を忘れかけていた。神に見初められたら命を失う、というキョウカの言葉を思い出す。サクラだけじゃない。他の皆も、簡単に失ったりするもんか。
「まあ結論から言えば、あなたの力を使えば簡単ですよ。あなた自身はこの世界から消えて無くなるでしょうけど」
「どういうこと?」
「元々、この世界は崩壊しかけてたんです。それを何とかしようとして、私や皆さんに力を与えている神が介入しています。それぞれ介入の仕方が違いますけどね」
また何か知らない設定出てきた。崩壊しつつある世界に介入する神とか、そういうストーリーだったっけ?
「この世界はエネルギーで編まれた薄布みたいなものです。あちこちほつれて穴が開いたり、また塞がったりしながらその形を保っている。今回はそのほつれが大きくなって…あ、とりあえず聞き流してください。理解してほしい訳ではないので」
またバカみたいな顔になっていたのか、キョウカが残念な子を見る目でこっちをチラ見した。くそう。
「その破れかけた布に方向性の違う力がぶつかっているので、うまく調整しないとビリビリに破けてしまうかもしれない状況なんです。私は相手の力も利用しつつ内側から補強する方向性なんですけど、皆さんに力を与えている方はわりと大雑把に外から縫い合わせてしまおうとしている感じですね」
なんかワガママな人達がぎゃいぎゃい言いながらボロボロのスカーフを奪い合っているような絵面が浮かんだけど、合ってるんだろうか。もう話が壮大すぎて分からない。
「サクラは元々その大雑把な神の力を受けていましたが、あなたが加わることでもう一つの力の次元を得ました。サクラがある種の特異点になっているので、その力を解放すれば今の状況は解決します」
「それ、サクラは大丈夫なの?」
「むしろサクラにとってはいいかもしれませんね。今、元のサクラはどうなってると思います?」
元のサクラ。ずっと気になっていた。私がサクラになったことで、元々のサクラの人格はどうなったのか。
「さっきの例えだと、元のサクラの魂、に相当するものは新たな次元を与えられたことでこの世界とは違う座標に移動しています。まあ、この辺だと思ってください」
キョウカが鏡の上の何もない空間を指差す。
「今のところ、あなたがこの世界に介入してきた時点の状態そのままで保存されてますね。あなたの影響が無くなれば、元の座標…サクラの体に戻りますよ」
「なんでキョウカにそこまで分かるの」
「それはまあ、私は神様ですから」
肩をすくめてみせるキョウカが、何を考えているのかは分からない。言っていることが正しい根拠はないが、どうしたらいいいだろうか。
車窓を流れる景色がゆっくりになり、止まった。隣の駅に着いたようで、ぽつりぽつりと狭い通路を乗客が通り過ぎる。誰もキョウカの膝の上にある鏡を気にする様子はない。座席に並んで座る二人が、この世界の命運を左右する神だなんて誰が信じるだろう。
笛の音が響き、また列車が動き出した。




