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パステルカラーストーム 10

「わあ…」


 運ばれてきたあんみつに、キョウカが目を輝かせる。賽の目に切られた寒天に、丸く盛られた粒餡。薄紅色と若草色の求肥が彩りを添えている。

 私の頼んだぜんざいには、きれいな焦げ目のついた丸餅が入っている。小皿の塩昆布が付いているのも嬉しい。カップに注がれたコーヒーは真っ黒。いいねいいね、ガツンと濃いコーヒー、久し振り。

 角砂糖を一個投入し、軽くかき混ぜて一口。苦味と香りに、ここ数日の悩みが流されていく。


「はー…」

「美味しい。アカメデイアの食堂もですけど、みんな美味しいですよね。すごいです」


 寒天を一かけらずつ掬って食べているキョウカが、しみじみ呟く。確かにこの世界の食事は全部美味しい。黙っていても3食におやつまで付く生活。贅沢な話だ。


「それで、話の続きなんだけど」


 ぜんざいを一掬い口に運ぶ。控えめな甘さで、小豆の香りがしっかりしている。うん、我ながら良い選択をした。


「キョウカの目的は何?何が狙い?」

「そうですねえ…」


 煎茶の入った湯呑みを手に、キョウカが窓の外に視線を向ける。外套を脱ぎ、白いブラウスの上に淡い空色のセーターを合わせた姿は消え入りそうに儚く見える。


「まずはエクストラについて、ですね。この前は、えーと力、だって言いましたっけ」

「うん。力そのものだって」

「そう、力そのものなんです。神の振るう力が目に見える形になったものと思ってください。神とは何かとかいう話は一旦置いておきますね」

「うん」


 どっちにしても理解できない話になりそうだし、まずは聞くだけ聞いておこう。


「皆さんアクセプタントが使う力も同じく神の力です。神の力を神の力にぶつけることで、現象として現れた力は消え、元あったところに戻ります。それが、皆さんのしていることですね」

「うん」

「そして戻ってくる時に、皆さんの使った力の一部を受け取っています。なので、戦えば戦うほど私の力は強くなっていきます」

「うん?」

「そうやって少しずつ力を蓄えて、やがて私そのものがこの世界に現れるというのが目的でした」

「…えーっと、つまり?」

「皆さんアクセプタントは、私が強くなるためのエネルギー供給装置というか、そういう感じですね」


 つまり?私達が必死になって戦うことで、敵を強化し続けていたってこと?ゲーム的にはだんだん敵が強くなっていくのは当たり前だし、そこを気にしたことはなかったけど、そういう理屈?

 相手を強くするために、私達は傷付き苦しんでいたってことか。

 ぴくりとも動かずに横たわるアヤメを、崩れ落ちるマユミを思い出す。理由も分からずに必死に戦い続けることで、より敵を強くして苦しみ続ける。これじゃ私達は──。


「そんな顔しないでください」


 キョウカが困ったように眉を下げる。


「人智を超えた力に触れるというのはそういうことです。神に見初められたら命を失う。それが一瞬のうちなのか、時間をかけてゆっくりとなのか。そういう違いはありますけど」

「…私達も生贄だってこと?」

「一言で片付けるなら、そうなりますね。ひどい言い方だとは思いますけど」


 淡々とあんみつを口に運ぶキョウカの声は平坦だ。神に捧げるために、湖に沈められたキョウカ。彼女が今どんな感情を抱えているのか、私には分からない。

 真章最終話がリリースされたのがサ終1ヶ月前。キョウカとのラストバトルに勝ってエンディングを迎えるのと、ソシャゲとしての終わりがほぼ同時だったので考えていなかったけど、キョウカを倒した後のアクセプタントはどうなる?

 エンディング後もゲームには普通にログインできて、デイリーミッションをこなすために恒常バトルを惰性でやってたりした。何も変わらない日常。そして、サ終によって全てが終わる。

 アプリ起動の度に見た、サーバエラーの表示を思い出す。ゲームそのものが消えて無くなった日。それを、この世界に当てはめるとすると。


「コーヒー、冷めますよ」


 言われて手が完全に止まっていたことに気付いた。カップを掴んだままの、小さな手。私の大好きな、サクラの手。

 カップを持ち上げ、ぐいっととあおる。サクラだったらきっと顔をしかめるだろう、口に広がる苦味。でも私には、慣れ親しんだ味だ。どこかで何かのスイッチが入ったのを感じる。カップをソーサーに戻して、正面のアクアマリンの瞳を真っ直ぐ捉える。


「…で、生き残るにはどうしたらいい?」


 神様だか何だか知らないけど、サクラを食い物にしようっていうなら徹底的に戦ってやる。ぎっと目に力を込めると、キョウカは満足そうに唇の端を持ち上げた。

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