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パステルカラーストーム 8

 キョウカが静かに語り終えた。しんと静まり返った部屋の中で、そっとその横顔を窺う。水色の髪に隠れた表情からは、相変わらず何も読み取れない。

 ゲームで語られていた話と大筋で同じだ。真章だとこの後、やがて人々に忘れ去られた少女と大蛇が混じり合い、祟り神として厄災をもたらすって流れだった。その厄災が形となったのがエクストラで、祟り神を調伏したい神々の力を得たのがアクセプタント。和洋折衷ファンタジーが和風オカルトに変わるという、ストーリーの整合性とか考え出すと頭の痛い展開だった。


「どうして、話す気になったの」


 キョウカの背景が明らかになるのは、ゲームでは真章終盤で完全に敵対関係になってからだった。今のようにアカメデイアの制服を着てうろついている時点では、謎の生徒という扱いだったはずだ。


「どうして、でしょうね」


 キョウカがぽつりと呟き、サクラの肩に頭を預けてきた。え、と思っていると、腕まで組んでくる。何どうしたのこの子。


「嬉しかった、んでしょうか」

「嬉しかった?」

「サクラ、お供えをしてくれたじゃないですか。本当に久し振りで、嬉しかったんだと思います」


 お供え…ああ、ハロウィンの時のあれか。やっぱり割れた大岩はお話の中の岩と一緒だったようだ。ガチャの石とか思ってごめん。


「あそこが、今言ってたお寺だったんだ」

「はい。もう何も残ってないですけど」


 崩れかけた石段と、雑草が伸び放題の跡地を思い出す。寺であったことを示す地名しか残っていないあの場所に、キョウカ…の元になった女の子は眠っていたのか。あの場所を離れる時に一瞬見えたのは、お話の女の子だったのか、それともキョウカだったのか。


「それで、キョウカの目的は何?」


 触れる肩から伝わる体温は、キョウカが今ここに存在していることを主張している。この部屋に入ってきた時の攻撃的な姿勢と、今の甘えるような態度。何が狙いなのか、全く掴めない。


「そうですね…どうしましょう?」

「はい?」

「最初は訳も分からず暴れ回っていた感じだったんですけど…今は、それなりに落ち着いていまして。どうしたらいいのか悩んでいます」


 キョウカが顔を上げた。アクアマリンの瞳が、サクラの桃色の瞳をじっと見つめてくる。さっきから何なんだこいつ…。


「どういうこと?」

「サクラは、私とエクストラ、と皆さんが呼んでいるものとの関係は知っていますよね?」

「…正しいかどうかは分からないけどね」


 真章ではエクストラはキョウカと大蛇の合わさった神の荒魂、祟りという説明だった。それをアクセプタントに与えられた神々の力で調伏していくことで、和魂、恵みへと変えていく。最終的にキョウカとして具現化した祟り神を討ち果たすことで、キョウカと大蛇は再び土地神となり平和が訪れる。

 真章終盤のキョウカとのラストバトルがキツくて、必死で攻略法を考えて辿り着いたエンディングがこれである。まあ説明になっているとは思うが、それなら魔女っ子衣装のサクラとか北欧神話風のマユミとかの格好は何なんだと。絶対最初からその設定考えてなかったでしょ、とツッコんだものだ。今までの流れからして全く違うってことはないのだろうが、そのまま信じていいものかどうか。


「祟り、みたいなものなんでしょ、あれ」

「うーん、祟りと言えばそうなんですけど。どう説明したらいいでしょうか」


 考え込むようにキョウカの目がすいっと右上に動く。こうしていると、本当にただの女の子のようだ。


「あれはですね、力そのものなんです。それが形を成して方向性を持ったというか」

「えーと?」

「分かりにくいですよね。私もよく分かってないから、説明が難しくて」


 困ったように首を傾げるキョウカとシンクロして、サクラも首を傾げてしまった。


「次までに、説明の仕方を考えておきますね。またお話しましょう」


 キョウカがぱっと立ち上がる。そのまますたすたドアの所まで歩いていって、くるっと振り返った。


「今日は楽しかったです。ありがとうございました」

「どうも?」


 ぺこりと頭を下げると、ドアを開けて行ってしまった。ぽかんと口を開けて、閉じられたドアを見つめる。


「…何だったの」


 最初は私を潰しにきていた、と思う。それから急に甘えるように近付いてきて、自分語りを始めて。核心めいた話になったと思ったら、急に出ていって。


「何なの?」


 ベッドにぽすんと倒れ込む。なんか疲れた。何が何だか分からないけど、とりあえずはっきりしたことが一つ。

 キョウカは、サクラの中の私を知ってる。他の誰にも明かしていない、言えずにきた秘密。

 それがどう転ぶのか、想像もつかない。またお話しましょうって、また来るってこと?今度は何を話すつもり?

 波乱に満ちた、嵐のような冬休みは、まだ始まったばかりだった。

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